サイドを制し、岐阜が快勝!―
これは76分までの試合展開に当てはまるタイトルだった。しかし、90分とアディショナルタイムを戦い終えたとき、このタイトルは使えないものとなってしまった。
76分までは岐阜の両サイドが大きく躍動をした。正確に言えば、69分にMF比嘉諒人が負傷退場するまでであった。
試合はお互い【4-4-2】を敷くが、岐阜は難波宏明とクレイトン・ドミンゲスの2トップが縦関係だったのに対し、熊本は左の仲間隼斗、右の中山雄登の両サイドハーフが共に中に絞って、インサイドハーフとしてプレー。ボランチと2トップとの距離を縮めて、高い位置でのポゼッションを狙ったが、その分、岐阜の両サイドが空いてしまった。
これを岐阜はしたたかに突いた。序盤からポゼッションで上回る熊本に対し、岐阜はボールを奪ったら、すぐさま左の遠藤純輝、右の比嘉の両サイドハーフに展開。しかも遠藤と比嘉のコンディションがすこぶる良く、キレのある仕掛けで両サイドでイシニアチブを握ることが出来た。
12分、右サイドでFKを得ると、MF高地系治のキックをゴール前でセンターバック阿部正紀がヘッドで合わせ岐阜が先制に成功する。21分には相手FKの展開から自陣ゴール前で阿部がぽっかり空いた右サイドのスペースにロングフィードを送る。これに反応した比嘉がドリブルを開始すると、ファーサイドには遠藤が走っており、2対2の状況に。比嘉はDF1枚を引き付けてから、絶妙なタイミングでグラウンダーのクロス。これを遠藤がダイレクトで、飛び出してきたGKを制して、ゴールに流し込んだ。2-0。岐阜のペースではなかったが、相手の薄くなったポジションを巧みに突いて、効率よく2点を奪って見せた。
その後も岐阜は奪ったボールを両サイドに展開し、精度の高いカウンターを披露。32分にはポジションを入れ替えて、左サイドを突破した比嘉が、右の遠藤にグラウンダーのクロス。遠藤が切り返してシュートを放つが、これはバーの上。37分にも左を突破した遠藤の折り返しを、中央でクレイトンがシュートを放つなど、効果的なサイドの崩しで岐阜がチャンスを量産した。
後半に入ってもその図式に変化はなかった。熊本・小野剛監督はハーフタイムに、「次の1点で大きく状況が変わる。相手を苦しめよう」と指示を出したように、前半の戦い方を続行した。それもそのはず、熊本は前半の出来が決して悪いわけではなかった。岐阜がそれ以上にしたたかさを持っていたからこそのスコアだった。それだけに熊本は前半と同じようにサッカーを進めることで、ペースを奪い返すことを狙えば良かった。インサイドハーフを置いて、中盤で厚みを持たせながら、養父雄仁と高柳一誠のダブルボランチのパスを中心に、攻撃の形を作る。
53分、養父のスルーパスにDF片山奨典が抜け出すが、DFヘニキのシュートブロックに阻まれた。岐阜も58分にカウンターから遠藤がバー直撃のシュートを放つなど、後半は一進一退の攻防に。
そして岐阜に大きなアクシデントが。69分、比嘉が負傷し、試合続行が不可能に。代わって三都主アレサンドロが投入された。この交代が結果として、1つのターニングポイントとなった。イニシアチブを握っていたサイドでのアクシデントは、試合の展開そのものを変えることになったのだ。
ゆっくりと逆に回り始めた試合の歯車。その因果か、岐阜にありえないミスが生じた。77分、熊本のロングボールをDF森勇介がヘッドでGKに返そうとするが、中途半端になる。飛び出してきたGK川口能活と、森、阿部の間に落ちたボールに対し、お見合い状態になっている隙を突いて、交代出場のFW澤田崇がかっさらい、そのまま無人のゴールに流し込んだ。状況を変える1点を奪ったのは熊本だった。ここから小野監督の言葉通りの展開に試合は進んで行く。完全に息を吹き返した熊本は、79分に交代出場のMF岡本賢明が右からのクロスに反応。完全にフリーでシュートを放つ。これはGK川口がビッグセーブを見せるが、86分には岡本から澤田につなぎ、澤田の右からの折り返しに、こちらも交代出場のFW巻誠一郎が押し込んで同点。後半アディショナルタイム2分には、岡本のパスを受けたDF園田拓也が、ペナルティエリア外から豪快なミドルシュートを突き差し、逆転。
あっという間の逆転劇。試合は3-2で熊本に軍配が上がった。岐阜からすれば、『勝てる試合を落とした』と思っている人も多いだろう。確かに岐阜は勝つ可能性を持っていた。しかし、これまで書いてきたように、熊本にとってもこの試合は前半から『勝てる試合』だったことを忘れてはいけない。共に勝機がある50−50の試合。そこの勝敗を分けるのは、『ミス』だった。そのミスが岐阜に多く出た結果であり、必然だった。決して『勝てる試合だった』と言い逃れてはいけない。岐阜はこの反省を生かし、次節は2位以内をすでに確定した湘南に挑まないといけない(9/28@BMWス)。
以上
2014.09.24 Reported by 安藤隆人