1-3というスコアに、何の不思議もない。残留争いの17位と、優勝を争う2位。春先からここまでチームのスタイルを確立できず、監督交代から1カ月もたたない大宮と、同じ監督でスタイルを追求し続けて3年目を迎える川崎Fとでは、それだけの差がある。組織で上回られることは試合前から分かっていたが、個の勝負でも圧倒された。文字通り、大宮の完敗だった。
前々節の鹿島戦同様、優勝争いのチームに対して「主導権を握られる」(横山知伸)ことは、大宮はある程度予想していた。ただ、押し込まれる一方だった鹿島戦とは違い、守備の進化は見て取れた。DFラインを高く押し上げ、「ファーストDFを決めないと後ろが決まらないので、まず金澤が行って、後ろが決まるという方法」(渋谷洋樹監督)で守備を行った。大宮にとって最も警戒するべき中村憲剛への縦パスを金澤 慎が遮断するとともに、もう一枚のボランチのカルリーニョスが中村を抑える。結果、高い位置でボールを奪って、川崎Fを全体的に下がらせるような攻撃もできていた。渋谷監督も、「失点するまで、攻撃がしっかりできるなと感じていた」という。そこに隙があった。
高い守備ラインを保つということは、その裏に広大なスペースを空けるリスクと背中合わせだ。さらに、ボランチが一枚前に出て行くぶん、バイタルエリアにセンターバックが出て行く場面が多くなるが、そこに食いついたところで川崎Fの個人技術に剥がされ、ピンチを迎える場面が序盤から頻発していた。21分、カルリーニョスの横パスをレナトが引っ掛け、中村が窮屈な体勢から左足で、ゴールに向かって動き出した大久保嘉人へ正確なラストパス。GK北野貴之との1対1を大久保が冷静に沈めて川崎Fが先制する。
金澤が試合後、「コンパクトにしてゾーンを引いた中で、スペースを消しながら、一人がプレッシャーに行ったらしっかりカバーすることができなかった」と振り返った、その傾向が失点によってさらに顕著になった。食いつかせて、そのスペースに次の選手が入り込み、連動してボールをつないでいく川崎Fのパス回しに、大宮は後手を踏み続けた。川崎Fの攻撃陣の、高い技術を恐れ、「1対1をさせたくないぶん、早めに人に対して取りに行ってしまった」(金澤)ことが、逆に、「相手がドリブルを仕掛けやすいスペースが空いた展開に持ち込まれた」(金澤)要因となった。
2失点目はこの日、「相手のストロングである小林悠選手を抑える」(渋谷監督)ために左サイドバックに起用した、対人守備に定評のある片岡洋介が、サイドの1対1で田中裕介に抜かれ、カバーもなくフリーで入れたクロスを大久保に押し込まれた。今季J1初、大久保にとっては2度目となるハットトリックの3失点目は、シュートまで競り合った金澤も「まさか撃たれるとは」と脱帽したスーパーゴールだが、山本真希の横パスの時点から、中村のワンタッチでの浮き球パスで大久保が裏に抜け出すイメージは描かれていた。「他のチームメートが、しっかり彼にボールを供給する、周りにパスコースを作るということを続けているので、彼が点を取れている」と、風間八宏監督もチーム全体で相手を攻略しての得点であることを強調した。
ただ大宮も、3点は失ったが、引いて防戦一方ではなく、それだけ攻撃にもエネルギーを割いた結果ともいえる。シュート数では14対10で川崎Fを上回った。渋谷監督の意図通り、「相手の弱点でもあるサイドを意識しながら攻撃はできて」おり、泉澤 仁とズラタンのワンツーから、片岡のクロスにムルジャが頭で合わせた場面や、金澤のロングパスをペナルティエリア内で家長昭博が収めてシュートした場面、カウンターから金澤の縦パスにズラタンが反応してシュートまで持ち込んだ場面など、決定機も作った。得点は、3失点目以降に左サイドバックへポジションを移した高橋祥平が縦に仕掛け、クロスがオウンゴールを呼び込んだもので、サイドを狙ったことは間違いではない。
ただ、クロスの入るタイミングが、中の選手と合わない場面が度々見られた。中で欲しいタイミングで入らず、いつ入ってくるのか分からないために中も準備しようがない。そもそも本来はターゲットになるべき長身のズラタンがクロスを上げ、中で小柄な家長や泉澤が待っている場面さえあった。チームとして相手を崩す形、得点を取るまでのイメージが共有されていないことは明らかだ。「相手はそれができていた」(横山)、そこに埋めようのない大きな差があった。
首位・浦和が新潟に勝利したため勝点差を詰めることはできなかったが、3試合ぶりに復帰したエース大久保のハットトリックという最高の結果を得て、川崎Fにはさらなる勢いがつきそうだ。小林悠、レナトの負傷交代は不安材料で、苦しい台所事情になるが、ヤマザキナビスコカップとリーグタイトルと、2冠へ向けて川崎Fの挑戦は続く。
大宮にとってここでの完敗は、残留争いを戦いぬく上で、もう一度謙虚に足下を見つめ直す契機ととらえるしかない。監督交代以来、連勝はしていたが、決して手放しで安心できる内容ではなかったのだ。守備においても攻撃においても、いまだ再構築中の未熟な部分を、優勝争いするチームは見逃してくれなかった。そもそも、ここまでチームとして積み上げてきたものが違う。ボールを止める技術、体の使い方、空いたスペースに入り込む戦術眼、確実につなぐ技術……、「個としてもチームとしても差があった」(橋本晃司)。すぐに中3日で15位・清水、翌週には13位・甲府との直接対決が控えている。そこまでに一つ一つ、課題を克服していくしかない。
以上
2014.09.24 Reported by 芥川和久