J1昇格プレーオフ進出をかけて戦う福岡。J2残留をかけて戦う東京V。立場こそ違え、この試合で必要なのは勝点3以外にないという点では一致していた。ともに連敗中。生き残りをかけたギリギリの戦いの中では、技術・戦術はもちろん、サッカーの原点とも言うべき戦う姿勢を表現できるかという点でも、求められているものは同じだった。そして、不器用ながらも、それを90分間に渡って発揮し続けたのは東京V。サッカーの神様が東京Vに微笑んだのは当然のことだった。
立ち上がりからアグレッシブに仕掛けたのは東京Vだった。平本一樹が前線でボールに対して激しくプレッシャーをかけると、それに引っ張られるように若い選手たちが、次から次へとボールにアタックしていく。その姿からは5戦勝ちなし、4連敗中というネガティブなものは感じられず、むしろ、自らの力で勝点を奪い取るというポジティブなエネルギーが伝わってくる。
もちろん、福岡も前へ出ることで対抗する。これでもかとばかりに襲い掛かる東京Vだが、チームとしての連携不足は否めず、前の選手が激しくボールに行くことで中盤にスペースができる。そこへ平井将生が落ちてボールを受けることで起点を作り、やがて、ボール支配率で東京Vを上回っていく。
しかし、主導権を握っていたのかと言うとそうではない。東京Vにプレッシャーをかけられる最終ラインには慌ただしさが漂い、ボールを持たない選手の動き出しが少なく、ボールを受けてもパスをつなぐことができずに相手に奪われるシーンが目立つ。その傾向は修正されるどころか、時間の経過とともに強まっていき、やがて前線と最終ラインは完全に分離した。そして、ボールをキープしながらもミスでボールを失うか、あるいは単純に前へ蹴り出して相手にボールを渡すというパターンを繰り返していく。
ハーフタイムを過ぎても、福岡のリズムは変わらない。そして、東京Vは、前半からフルパワーで走り回っていたにもかかわらず、その運動量を落とすことなく高い位置からボールを追い続ける。ほどなく東京Vが主導権を握ることになるが、それも当然の流れだった。
リズムに乗って攻め続ける東京V。なす術もなく、ただボールを跳ね返すだけの福岡。東京Vは詰めの段階で決め切れないシーンが続くが、それでも前へ出続ける姿勢は決して消えない。そして88分、この日、唯一のゴールが生まれる。左サイドの深いところでロングフィードを受けた平本が、対峙する堤俊輔をかわしてゴール前へクロスボールを送ると、長い距離を走ってペナルティエリアに入ってきた中後雅喜が頭で合わせた。そして、福岡の反撃を0に抑えて、東京Vが連敗を4で止めると同時に、J2残留に向けて大きな勝点3を手に入れた。
「佐藤優也であったり、センターバックの井林章、ジョンピル(金鐘必)、また、中後、平本一樹と、縦のラインがしっかりとした中で、若手が躍動感あるサッカーをすることが自分たちのストロングだと強く思っている」
試合後の記者会見での富樫剛一監督の言葉だが、この日の勝利は、まさにその形で奪ったもの。残留争いという大きなプレッシャーの中で、若い選手たちが自分の力をフルに発揮することは決して簡単なことではないが、この日、それぞれが伸び伸びとプレーしていたのは、ベテランたちが要所を締めていたからにほかならない。勝点3はもちろん、東京Vにとっては大きな勝利となった。
一方、敗れた福岡はこれで3連敗。仕上げの段階に入って足踏み状態が続いている。「非常に悪かった。これまで出してきた我々の強みを活かしてプレーすることができなかった」とマリヤン・プシュニク監督は肩を落とした。ミスがあまりにも多すぎてサッカーにならなかっただけではなく、この日の試合ではチーム全体のバランスが崩れてしまったことが気にかかる。6位との勝点差は6に開いたが、残り試合数を考えれば、まだまだ可能性は残されている。いい時と悪い時を繰り返しながら一歩ずつ進んできた福岡だが、ここからの9試合に自分たちの真価が問われることになる。
以上
2014.09.24 Reported by 中倉一志