神戸の高橋峻希は清水との一戦を次のように振り返った。
「最近、早い時間帯に決められることがあったので、先に相手のDFラインを下げようというか…。それで相手も引いて、真ん中を使えたんじゃないかなと思います」。
前節のF東京戦でも、4−4−2のフォーメーションを敷き、前線の田代有三へ長いボールを入れて相手DFラインを押し下げ、中盤にスペースを作った。高橋が話すように、今節も神戸は立ち上がりから田代へロングボールを入れ、清水のDFラインを押し下げた。このゲームプランが勝敗を分けた一つのポイントだと言えるだろう。
清水のフォーメーションは3−4−3。前線にノヴァコヴィッチを置き、大前元紀と高木俊幸の2シャドーを配す布陣。この3枚に両サイドハーフとボランチ2枚が攻撃に絡むシステムを組んでいた。ハマれば、かなり分厚い攻撃になるはずだが、神戸のロングボールによって計算が狂うことになる。両サイドハーフが守備に追われ、気がつけば最終ラインが5バックに。後ろが重くなったことで、前の3枚がやや孤立する傾向になった。これでは神戸のDFラインを崩すのは難しい。神戸のロングボールは、中盤にスペースを作るだけではなく、清水の攻撃に釘を刺す効果もあったというわけである。
神戸は自ら作った中盤のスペースを活用し、ボールポゼッションに成功。森岡亮太やペドロ ジュニオール、あるいは両サイドバックの高橋や橋本英郎にボールを預け、サイドチェンジを織り交ぜながら清水DF陣を左右へと揺さぶった。それによって生まれた中央のギャップへタイミングを見計らって縦パスを入れていく。これをスイッチにして、攻撃陣が一気に連動して動き、少ないタッチ数でパスを回しながら崩していった。少し見方を変えれば、ワールドカップ中断前によく見られた神戸の中央突破を、ロングボールとサイドに起点を作ることで自ら呼び戻したと言える。
この意図が実を結んだのが11分。縦パスを受けたマルキーニョスがターンして相手を交わそうと試みる。これはカットされるが、清水のイ キジェがボール処理に手こずると、それを神戸のペドロ ジュニオールが見逃さず、ボールを奪い返してゴールへと結びつけた。
その後も中盤でボールを保持しながら、神戸はタイミングを狙って攻撃を仕掛けていく。必然的に、神戸が攻撃、清水が守備という図式が出来上がっていった。その中で清水もカウンターで1点を狙いに行った。34分頃には縦パス1本で高木が神戸DFの裏へ抜け出してシュートまで持ち込んだ。単発ではチャンスを作ったものの、セカンドボールが拾えず厚い攻撃をできないまま時間だけが過ぎて行った。
神戸が優勢に試合を進める中で、39分には見事なパス交換で再び神戸がゴールを挙げることになる。森岡からの縦パスに反応した田代がワンタッチでシンプリシオに横パスを入れると、シンプリシオがマルキーニョスへ絶妙な縦パスを供給。マルキーニョスはフェイクで相手DFを滑らせ、冷静にゴールへと流し込んだ。中盤にスペースを作ってボールを支配し、隙を突いて点に結びつける、神戸のプランが結実した瞬間でもあった。
2点ビハインドで後半を迎えた清水は、目蓋の上を4針も縫うケガを負った本田拓也と高木を下げ、後半の頭から水谷拓磨と石毛秀樹を投入。50分には、これまで前線で起点を作っていた神戸の田代が負傷でピッチを退くと、流れが清水へと傾きかけた。だが、神戸は田代の代わりに入った石津大介が両サイドを縦横無尽に駆け回り、田代とは違うベクトルで清水のDFラインを押し込めた。58分には、その石津のアシストでペドロ ジュニオールがこの試合2点目をたたき出し、リードを3点に。ここまでは完璧と言ってもいいほど神戸のゲームだった。
後がない清水は、DFのブエノを下げて、スピードのある村田和哉をピッチに入れ、大前、石毛、村田が高い位置から激しくプレッシングを掛けると、徐々に攻撃のリズムが生まれ出す。69分には神戸のリスタート時に大前が森岡からボールを奪い、ノーマークのノヴァコヴィッチへつないで1点を返した。その後は清水がカウンターを仕掛け続けたが追加点が奪えず、3−1で神戸が勝利した。
先ほど、このゲームのポイントとして神戸のロングボールを挙げた。だが、勝敗に直接関係するポイントとしては、先制点も重要なポイントと言える。前半11分という時間帯もさることながら、清水の本田が負傷でピッチを出ている時、つまり相手が10人の時に数的優位を活かしてゴールを奪えたのが今後につながる良い点と言えるだろう。
安達亮監督は試合後にこう振り返っている。
「試合巧者といいますか、そういうところが我々にはまだ足りなくて。ただ、今日の1点目に関して言うと、相手が10人だったことも、多分、中でやっている選手たちは意識していたと思いますし。ファビオ(シンプリシオ)が、そこで冷静にパスを出して、それをペドロがきっちり決めてくれた。ベンチで見ていて、相手が10人のうちに点を取れと思っていたのでね、そういう“したたかさ”というか、そういうのも出てきたかなと思います」。
言い換えると、勝敗を左右する大事な時間帯を、神戸の選手たちが感じ取り、チャンスタイムにしっかりと結果に結びつけられた。残り10節でタイトル争いが佳境に差し掛かるこのタイミングで、“したたかさ”が見られたことは大きいと言えそうだ。
川崎F以外の上位(浦和、鳥栖、鹿島、G大阪)が軒並み勝利を収めたため、神戸の順位は6位のまま。首位・浦和とは勝点11差あるものの、2位・川崎Fとはわずか勝点5差になった。充分にタイトルを狙える好位置に踏みとどまったと言えるだろう。
逆に敗れた清水は、大宮以外の下位チーム(仙台、甲府、C大阪、徳島)が敗れたため順位は13位のままだが、以前としてJ2降格のリスクと背中合わせ。本田拓也が「選手一人一人、危機感はあると思うし、そういう話もあるけど、今から特別なことをやって変わるわけではないと思うし、もっと全員がハードワークしないといけない。チームとしてどうやって守っていくのか、練習からもっと走ってやんないとダメかなと思いました」と言うように、自分たちのスタイルを信じて、追求していくしかない。
上昇気流に乗りつつある神戸と、暗雲を突き破れない清水。両者の現状がはっきりと出た一戦だったと言えるかも知れない。
以上
2014.09.21 Reported by 白井邦彦