膠着した試合を動かしたのは土居聖真のドリブルからだった。前節の大宮戦同様、この日も相手ボランチにマークされ、なかなかパスを受けられずにいると、心の中でふつふつと怒りがこみ上げてきたという。
「自分や味方にそれをぶつけるのではなく、相手にぶつけようと思った」。
中盤の左でカイオからパスを受けると決然とゴールへ突き進む。緩急を付けたドリブルでスルスルとゴール前まで侵入するとゴールが見えた。もう一つ行こうかと思ったところで遠藤康が自分の背後にまわり込むのを感じると、足裏で遠藤にボールを託す。「思い切って蹴った」という遠藤のシュートは榎本哲也の手を弾きゴールネットを揺らす。38分に生まれた遠藤の得点は、ゴールに向かいながら味方の動きもよく見えている土居らしいプレーがつくりだしたチャンスを得たものだった。
ただ、流れは掴みながらも追加点が奪えない展開は理想的とは言い難い。横浜FMの樋口靖洋監督が「90分に渡って我々が主導権を握る時間がほとんどないという状況」と認めるほど、横浜FMになにもさせないことはできていたが、ラストパスやゴール前でのシュートの精度を欠いたことで、次の得点が決まらない。56分にはPKを得たものの、これをダヴィが外して追加点のチャンスを逸する。
セットプレーに強さを持つ横浜FMに1点リードを守り切るのは至難の業。案の定、残り時間が少なくなればなるほど、シンプルにゴール前に蹴り込んでくる相手の勢いに押され、ゴール前にへばりつく時間が増えてしまった。しかし、全員が集中力を保ってこれを弾き返し続けたことは、こぼれ球を押し込まれた前節の教訓が生かされたからだ。
「大宮戦は下がりすぎていた。もう1m上げて、ソガさん(曽ヶ端準)の出やすいスペースをつくろうと話していた。(西)大伍くんや(山本)脩斗くんと『上げよう!』と声をかけあった」。
4試合ぶりの完封勝利に、鋭い出足で相手の攻撃の芽を摘み続けた昌子源の舌も滑らかだった。
心配なのは横浜FMだ。昨季、最後まで優勝を争ったチームが、90分でわずかにシュート1本に終わった。それも終了間際の中村俊輔のフリーキックが壁に当たったシュートがカウントされたのみ。流れのなかでは一度もシュートすることができず、ゴールの枠に飛んだシュートは1本もなかった。
「なかなか攻めきれないゲームで、基本的に主導権を90分に渡って我々が主導権を握る時間がほとんどないという状況では、なかなか勢いのある鹿島に勝つことはできなかったなと思います」。
樋口靖洋監督は、いつもと変わることなく務めて明るい態度でコメントを残した。しかし、続いて口を出たのは「いずれにせよ攻撃の形が見えない」という深刻な内容。苦しいチーム事情を認めざるを得なかった。立て続けに試合が来る3連戦をうまく乗り切りたい。
以上
2014.09.21 Reported by 田中滋