「ストップ・ザ・横浜FC!」のスローガンを掲げていたかは定かではないが、14戦無敗と好調が続く横浜FCを止めるべく立ち塞がったのは、やはりこれまで対横浜FC戦で3戦無敗と圧倒的に相性の良い長崎だった。
実は横浜FCにとってこの試合は大きな記録に並ぶチャンスだった。2006年シーズンに横浜FCは第2節から第18節まで15戦負けなし(9勝6分)のクラブ記録を樹立しているが、今回の長崎戦に勝つか引き分けるかで、その記録に並ぶはずだった。さらにその際、チームを率いていたのは今節対戦する長崎の高木琢也監督。何か運命すら感じるような一戦だった。
高木琢也監督も「意識していたわけではないが、僕にとっても選手にとっても良いモチベーションになった」というとおり、長崎は横浜FCを止めるべくアグレッシブにそしてクレバーに90分を戦った。横浜FCは「中盤の守備力に優れたチーム」(高木監督)。決して長崎が試合を通して主導権を握った戦いとは言えなかったが、63分に三原雅俊が倒されて得たPKをエースの佐藤洸一が豪快に蹴りこみ先制。84分には横浜FCにもPKの機会があったが、この日チーム加入後2戦目の出場となるGKの植草裕樹が見事にストップ。長崎が虎の子の1点を守りきり勝利した。
高木監督はその植草について「後ろから厳しくコーチングしてくれている。PKは運もあるが、気持ちが強い選手なのでああいうシーンを作ってくれたと思います」と讃えた。 これまで山形や神戸などに在籍し、出場機会のなかった時期も長かったが、今ようやく日本最西端の長崎の地で活躍の場を得た。横浜FCの山口素弘監督は試合後、「(横浜FCの選手は)非常にファイトしていいプレー見せてくれたと思います。簡単に言うと、ウチはPK決められず、向こうは決めた。そういう試合だったと思います」と振り返った。相手チームの監督から見てもこの試合の主役は植草だった。
この試合、横浜FCはシュート数では長崎を上回る10本を放った。チャンスの数も少なくはなかった。ただ、「長崎のハードなプレス外して、意図して良く繋いでいましたが、最後でもう一工夫足りなかったかな」と課題を挙げた。今季の横浜FCは中盤戦以降、「劣勢の試合でも終了間際に得点を重ねるなど粘り強さがある」(小松塁)。この日も先制された後は怒涛の攻めを見せたが、「リスタートとパク・ソンホを抑えるか」(高木監督)をポイントにしていた長崎の守備陣が集中を切らさずに守りきった。パクのシュートはこの日ゼロ。長崎の課題であるカバーリングが徹底されていた。松下裕樹のFKについてもコーチ陣が徹底的な分析を行っており、試合前日の練習でも最も警戒していたために危ない場面はなかった。
もちろん横浜FCとしては当然、「僕も選手も気にしてなかった。今日、負けて(記録が途切れたことについては)、どうとも思わなかったです」と山口監督が言うように、記録など気にせず、切り替えて次の大分戦に望む他ないだろう。ともすればクラブの無敗記録タイ(15戦無敗)を意識し、固くなってしまいそうな試合だったが、選手をリラックスさせようと試合前に「平日ナイター俺は仕事をサボるけど選手は絶対サボりません!」とユニークな横断幕を出した横浜FCサポーターの憎い心使いも忘れずに触れておきたい。
一方の長崎は、「足りないのは勝点3。どんな形でもいいので絶対に勝ちたい」(野田紘史)という試合に勝った。高木監督も「(横浜FCの無敗記録を止めたので)今度は自分たちが勝っていかなければ」と前を見据える。両チームともにまだシーズンは終っていない。あるのは記録という過去ではなく、これからだけだ。
以上
2014.09.20 Reported by 植木修平