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【J1:第33節 名古屋 vs 甲府】レポート:サヨナラ! ピクシー。名古屋の哲学は甲府を突き崩せず、メモリアルなホーム最終戦をスコアレスのまま、静かに終えた(13.12.01)

思い描いていた終幕の時ではなかったかもしれない。両チームが力を尽くしつつも、結果はスコアレス。4分の追加タイムを消化し、試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、スタジアムには何とも言えない空気が漂った。もの足りなかったと言わざるを得ない試合だったが、しかしこういった試合もまた「ストイコビッチの名古屋」の典型的な試合であったのも確かだ。世界一の負けず嫌いゆえの采配が裏目に出る。指揮官の口癖を借りれば、「これも人生、これもサッカーだ」という戦いだった。

26,369人の大観衆に後押しされるように、前半から攻勢に出たのは名古屋の方だった。自陣中央とゴール前を中心に守備を固めた甲府に対し、真っ向から崩しにかかる。ケネディのポストプレーを軸としたサイド攻撃に加え、この日は永井謙佑の飛び出しを活かす攻撃も目立ち、18分の決定機を皮切りに20分のCK、23分と立て続けに甲府ゴールへ迫った。特に23分の2つのチャンスはまさしく決定機で、GKからのロングボールをケネディがフリックし、収めた藤本淳吾が永井にスルーパス。これはオフサイドとなったが、直後の攻撃でも藤本のフィードから小川佳純がDFをかわしてシュートを放つなど、「25分くらいまではすごくリズムが良かった」という永井の言葉通りに名古屋がゲームを支配した。しかし、ここで先制点を奪えなかったことで試合は膠着していくことになる。

名古屋の猛攻を耐え抜いた甲府は徐々に攻撃に力を割けるようになり、パトリックとジウシーニョのキープ力を頼りにカウンターの威力を増していった。特にパトリックの存在感は大きく、189cm、82kgという巨漢には似つかわしくないスピードも生かし、ゴリゴリと前線へボールを運んでいった。対応した増川隆洋は「パトリックは自分にボールをどんどん呼び込んで、そのまま自分のレールに乗せて突っ切っていく」とそのプレースタイルを表現したが、収めてよし、競ってよし、自分で持ち上がってよしという万能センターフォワードの奮闘により、甲府は安心感を持って攻撃に移っていたに違いない。前半も30分を過ぎると展開はイーブンになり、36分と44分には前線の選手たちと柏好文で右サイドを崩し、決定機を演出している。

後半は両監督の采配が実に対照的に機能した。まず名古屋のストイコビッチ監督は膠着する展開が変わらないと見るや、16分にボランチ2枚を代える荒療治に出る。中村直志、ダニルソンに代わって入ったのはダニエルと田口泰士だ。しかも前節同様にダニエルを中盤の底に配すのかと思いきや、スルスルと背番号4が前線に上がっていく。永井をサイドハーフに、藤本をボランチに下げ、最前線を田中マルクス闘莉王とケネディのツインタワーとした。思えばこれもストイコビッチ采配の定石だった。昨季はその起用に応えて9得点を挙げた闘莉王だったが、甲府の堅固な中央守備に対し「足下でボールを受けるスペースもなく、自分は少し下がってプレーするなど工夫は考えた。それでも相手のディフェンスとMFの間でボールを受ける事もあまりできず、パワープレーでもしっかりとつなぐ事ができなかった」と苦戦。闘莉王のパワープレーは甲府も想定内だったようで、「絶対に1人で勝たないといけないわけではない。負けても周りがカバーしていれば、そうそう得点になることはない。それがウチの戦い方なので、しっかりできたと思います」(青山直晃)と対応も落ち着いたものだった。そしてその対応が正しく機能していたことは、「甲府はウチがクロスを合わせるところでもしっかり1人が競って、こぼれを拾っているなという感じもしました。他のチームの時はウチがセカンドボールを拾えたりもしたけど、今回に限ってはそれが少なかった」という阿部翔平の証言からも明らかだった。

結果として、名古屋は後半のシュートを3本に抑え込まれ、逆に甲府のシュートを6本許した。69分には柏に決定機を作られたが、これは何とかDFがブロック。試合終了直前にはCKから青山の強烈なヘディングシュートを浴びたが、これもDFが体を張って止め、その瞬間に終了のホイッスルが鳴った。ディフェンスの観点から言えば甲府が成功した試合であり、その中で決定機をいくつか作ったことも踏まえれば、「内容としてはアンフェア。ウチが勝っている試合だった」という城福浩監督の言葉も頷ける。名古屋としては策が実らず、相手の決定力に助けられた感が強い。それだけに0−0というスコアは妥当ともいえ、名古屋の選手は悔しがり、甲府の選手は一定の手応えを掴むような言葉を発することになったのだろう。ホーム最終戦でゴールの喜びを分かち合いたかった名古屋としては、余計に悔やまれる結果となった。

試合後の取材エリアにおける名古屋の面々は、みな寂しげな表情を浮かべていた。6年間の指揮を執った監督が去り、数年来の友人たちがクラブを去るのだから無理もない。田中隼磨、阿部翔平、ダニエル。そしてもう1人、セレモニーで場内を回った際に感極まって涙したのが増川だ。公式に発表はないが、彼もまたクラブを去ることが決定的。涙の理由を問われ「我慢しようと思ったんですけど、我慢しきれずに…。いつもはそこで奮い立つんですけど、違う意味で感情が奮い立ってしまいました。でも感謝の部分が大きいんで、その一言ですね。それ以上に言うことはないです。長いことプレーさせてもらったんで、ありがとう、ですね」と話す際にも、その眼には光るものが見えた。191cm、93kgという日本人離れした体格を持つセンターバックは、闘莉王というパートナーを得てその能力が開花。空中戦の強さはもとより身体を活かしたシュートブロックや、フィード能力でも定評がある。2010年にはJリーグベストイレブンに選ばれたが、このシーズンのパフォーマンスは間違いなく日本代表のレギュラークラスだったと断言できる。34歳とベテランの域だが、大学まではトップ下を務め、名古屋に来てから本格的にDFを始めた男だ。名古屋での9年間の経験はクレバーな頭脳に刻まれており、フィジカルも十分。まだまだ活躍が見たい選手である。

そして6年間の任期を終えたストイコビッチ監督は、試合後のセレモニーでは挨拶の半分を日本語で話した。13年間を過ごした日本の言葉は実に流暢なものだった。日本語で話した理由は「より良い理解のため(笑)。私はたくさんのことをこの名古屋で学びました。だからこそ、日本語で気持ちを伝えることは、長年名古屋で過ごした私にとっての“義務”だと考えました」とのこと。世界的なスターがここまで言う。彼がいかに日本と名古屋を愛していたかがわかる。そしてサポーターへ向けた言葉には、サッカーに生きる者の嘘偽りない想いが詰まっていた。

決して最高の形で終えられた今季の、そして“ピクシー・ベイブス”のホーム最終戦ではなかったかもしれない。しかしそれ以上の愛に満ちた試合ではあった。大観衆の声は温かく、大きかった。次節は本当の意味での最終戦。奇しくも会場は、ピクシーですら1勝しか挙げていない鬼門新潟・東北電力ビッグスワンスタジアムだ。今季の成績からすれば有終の美とは言えないかもしれない。しかし、ストイコビッチが率いてきたチームの集大成を見せ、勝利でその幕引きをしたい。この6年間を美しい思い出とするためにも、次戦での彼らの振る舞い、態度、そしてプレーの一つ一つを、目に焼き付けたい。

以上

2013.12.01 Reported by 今井雄一朗
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