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【J1昇格プレーオフ:準決勝 京都 vs 長崎】長崎側プレビュー:西の果てから今、太陽が昇る。新しい時代に臨む挑戦者たちよ、しっかりと舵を取れ(13.12.01)

★京都側プレビューはこちら

ハードワークをベースとしたサッカーで今季J2に驚きを与え続けたニューカマーがとうとうここまでやって来た。長崎は史上最速でのJ1昇格を目指し明日、J1昇格プレーオフ準決勝を戦う。相手は2年連続3位の強豪、京都。

京都と長崎の今季の対戦成績は長崎の2敗だが、京都は現在、怪我人もあり、この大一番でベストメンバーが組めない可能性もある。さらにプレーオフ進出が決定した後は調子を崩し、シーズンの最後には3連敗を喫している。決して不安がないとは言いきれない。

それに昨年は最終節で自動昇格を逃すと、プレーオフ初戦では6位の大分にホームで敗れている。長崎と異なり選手の多くはプレーオフの恐ろしさを知っている。選手は絶対に2年連続で同じ失敗をしてはいけないと考え、無意識のうちに緊張してしまうということもあるだろう。ましてや新参者の長崎などに歴史あるクラブがホームで敗れるようなことがあってはならないといった自負がプレーを固くするといったこともありえるはず。京都には名門クラブが背負うべき責任があり、悲願であるJ1復帰には悲壮感や義務感といったものが必然的に伴ってしまう。おそらくこの試合、京都が戦うべき相手は長崎ではないはずだ。

さらに忘れてはならないのが、上位クラブに付与された「引き分けでもいい」というレギュレーション上のアドバンテージ。もしかするとこれは真綿のような優しさで、京都の選手を締め付け、苦しめるかもしれない。引き分けなど決して狙えるものではない。大木武監督にとって相手が2勝している長崎だから「こそ」、チームマネジメントは難しいはずだ。

また、京都は「サッカーが上手い選手が揃っている」(高木琢也監督)。長崎は京都と比較すれば個々の足元の技術では劣ることは確かだろう。ただ一発勝負に技術はさほど関係するとは思えない。サッカーの歴史を紐解けば、強者が散った例は枚挙に暇がない。94年のFIFAワールドカップではイタリア代表のロベルト・バッジョですらPKを外したではないか。プレーオフでは京都の技術というものはアドバンテージではないのかもしれない。

少々大げさかもしれないが、付け加えるならば人類の歴史は常に新参者によって塗り替えられてきた。弱者が強者を倒してきた。長崎という新たな興隆がJ2の歴史を塗り替えようとしている今、サッカーファンの多くは、この小さいながらも希望に満ちた船の航海を知らず知らずのうちに応援してしまっているのではないだろうか。「長崎のイケイケフットボールはどこまで行けるのだろうか?」と。

新しい時代に臨む挑戦者たちがしっかりと舵を取れるのには訳がある。一つは帰る”港”を持っていることだ。それは熱狂に沸く長崎の街でもあり、”ハードワーク”という自分達のサッカーの礎だった。下部カテゴリーから這い上がってきた選手や他のクラブで戦力外になった選手はハングリーだ。彼らはどんなときも走ることをやめなかった。全員がベクトルをあわせ、互いにサポートして連動性のある攻撃を行う。いわゆる”イケイケフットボール”はシーズンを通してブレることがなかった。連敗を喫した最後の2戦も堂々と「自分達のサッカーがやれた」(奥埜博亮)。

もう一つは、シーズン中に奥埜博亮や小松塁など新たな選手が加わったことで、ハードワークをベースとしながらも、少しずつ新たな形を加えながらチームが成熟していったことも要因として挙げられる。ダイレクトパス、ポゼッション、ロングボール、遅攻。それぞれを突き詰めてるとまだまだ高木監督の理想には届かないまでも、試合の中のシチュエーションによって、柔軟に対応できるようになりつつある。もはや、京都相手だろうと恐れることはないはずだ。

高木監督は京都との決戦を前に「京都との過去の対戦(2戦2敗)については考えていません。まっさらな気持ちで臨みます。長崎にとって勝つことだけが次のステージに進める条件なので、当然、前から行って、勝ちに行きます。京都に勝つためには2点以上が必要だと考えています」とこれまでと同様に”イケイケフットボール”で臨むはずだ。

最も驚くべきは、高木監督も驚くほど選手に気負いがないことだ。肝が据わっているというか、極めて自然体だ。「自分たちはチャレンジャー。気負う必要なんか何もないし、そもそも失うものが無い」と岩間雄大が話すと、古部健太は「6位は僕ららしくて良いと思います。京都には苦手意識はないですし、2回対戦してやりたいことはできている。むしろ京都が嫌がってると思う」と強気な姿勢を崩さない。また、昨年大分で昇格を味わった井上裕大は「確か去年も雰囲気的には今の長崎みたいなこんな感じしたよ」と笑う。この点をキャプテンの佐藤由紀彦に聞くと「僕らと違って、若い子は若い子で備えています」と不安はない。逆に「選手としてとても幸せだ。ここまでチームに携わってきた全ての人のおかげです」(佐藤洸一)、「楽しみたい」(高杉亮太)と周りが見えている。どうやら若く、希望に満ちた長崎の選手のほうが動きが軽くなりそうな気もする。

ゲーム自体について少し触れると長崎にとってこの試合で最も大事になるのは先制点だろう。今季は先制点が取れた試合で、逆転されて負けた試合は42試合中わずか3試合しかない。また、勝利した19試合のうち先制点を取った試合は、16試合にも上る。ただ、圧倒的にゲームを支配しながらも松本戦や徳島戦では攻撃の形に工夫がなく、フィニッシュの質で点を取れずに敗れた。長崎の直近の課題だ。京都のDFラインには対人には圧倒的な強さを誇る長身のバヤリッツァが構える。過去2戦、長崎は彼からことごとく攻撃を跳ね返されてきたわけだが、スピードは決して早いとはいえない、セオリーとして京都の高いDFラインの裏はどのクラブも必ず狙ってくる。長崎も過去2戦以上にどんどん突いていく必要があるのかもしれない。

また、京都と長崎はコンパクトな中盤と高いDFラインが生命線という意味では似たクラブだが、より長崎のほうが相手の良さを消すことが得意なチーム。長いボールを使うことで京都の中盤を引き伸ばしにかかるだろう。一方の京都は、4−2−2−2や4−3−3を使い分けるが、この試合も中盤の重心を変えることは有っても、自分達のサッカーの基礎を変えることはないだろう。長崎のプレスを一枚一枚剥がしていくことで、自分達のリズムにしたいと考えているはず。果たしてどちらが自らの土俵に持ち込むのだろうか。このあたりの攻防はおそらくこの試合の最も大きな見所にもなってくる。

ただ、なによりこのプレーオフで長崎の選手やサポーターが最も恵まれているのは、どのクラブより楽しむことができる位置にいること。のびのびと自分達の力を試せる。おそらく誰よりも楽しんだ先に、一番良い結果が待っているのかもしれない。晴れ渡った青空とどこまでも広がる青い海のように、長崎には希望の匂いがする。

以上

2013.11.30 Reported by 植木修平
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