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どんなことが起きようとも、柏レイソルは強くなければならない。
9月4日、天皇杯2回戦の筑波大戦で、ゴール裏からそう書かれた横断幕が掲げられた。
ほんの4年前まで、そんな言葉がメッセージとして使われるとはとても思えなかった。タイトルを争うこと、カップファイナルのピッチに立つこと、それは柏にとって別次元の話だったからだ。残留争いに必死で、J2へ降格すること2回。ヤマザキナビスコカップにいたっては1999年の優勝を最後に、ファイナルへ勝ち上がれない状況が続いた。
もちろん選手はプロである以上、あらゆる大会において「優勝」を目指してプレーをしていたとは思うが、それを目標として公言することはなく、むしろ「自分たちが簡単に“優勝”という言葉を口にすべきではない」といった雰囲気の方が強かった。
だが柏は、この4年間で大きく変わった。2010年、J2優勝。2011年、J1優勝。2012年、天皇杯優勝。勝ち続けることで意識が向上し、大谷秀和が言うように「下ではなく、常に上を意識する」クラブへ変貌を遂げた。今では「最低でも1年に1つはタイトルを獲る」と選手たちは憚ることなく語り、“強者”であり続ける意義を選手たちは理解している。アカデミー出身の工藤壮人からは「アカデミーの子どもたちに『レイソルはタイトルを義務付けられたクラブ』という意識を持ってもらうためにも、僕たちは常にタイトルを獲らなければいけない」と後輩たちの意識向上を見据えた頼もしい言葉も飛び出している。
今回のヤマザキナビスコカップは、柏がJ2優勝を含め、4年連続でタイトルを獲得できる絶好のチャンスだ。準々決勝で広島、準決勝で横浜FMと、現在リーグで優勝争いを繰り広げる強者と相まみえたことからも分かる通り、決勝までの道のりは決して平坦ではなかった。それでも180分をトータルしたカップ戦独自の戦い方では柏らしい老獪な面を発揮。辛くも広島と横浜FMを退け、国立への切符を手にしたのである。
展開としては“前哨戦”となったJ1第30節と同じく、柏は浦和に対して3−4−2−1のシステムを敷き、ミラーゲームへと持ち込む。出場停止の大谷、橋本和に加え、先日のリーグ戦では鈴木大輔が負傷、決勝戦に出場できるか定かではない。
ただ、メンバーが異なっても戦い方自体はリーグ戦と変わらず、前線の3枚が浦和の3バックにプレスを仕掛け、ビルドアップを封じながら、神出鬼没に動き回る相手の1トップと2シャドーにはマークを受け渡してボランチと最終ラインが抑える。そして攻撃の局面では4−1−2−3へ移行し、サイドを使った縦へ鋭い攻撃を仕掛けていく。上記した通り大谷、橋本、鈴木大を欠くことで選手それぞれの持ち味が変わってくるため、そのテイストの違いを良い方向へ結び付けられるかはポイントだ。茨田陽生の裏へのピンポイントパスは決定的なシーンを作り出せる。山中亮輔はチーム随一の快速で切れ味鋭いドリブルでサイドを切り裂くことができる。ファイターの増嶋竜也は、その熱い闘争心を前面に出して浦和のアタッカーを抑えつつ、大谷不在のチームを鼓舞してくれるだろう。
そして、柏の最大のトピックは、何と言ってもレアンドロ ドミンゲスの復帰だろう。
柏が誇る“キング”が1人入るだけで、攻撃のクオリティーは跳ね上がり、破壊力は増幅される。9月に手術へ踏み切ったのも、「カップファイナルに間に合わせたい」とのレアンドロ自身の強い意向があったからだ。試合から遠ざかっていたことで、フィーリングの面で若干不安は残る。しかし、「コンディションはすごく良い。決勝には出る。早くチームの力になりたい」と笑顔で語るレアンドロの口調からも状態の良さ、さらに優勝への意気込みと高いモチベーションが伝わってくる。間違いなくレアンドロは鍵を握る存在だ。
ベストの布陣を組む浦和に対し、主力を欠く柏。これだけを考えれば、柏は分が悪い。しかしここまでくれば、最後に勝負を左右するのはメンタルだと思っている。そしてそのメンタル面の強さと優勝への飽くなき執念は、柏の最大の強みだと断言してもいい。
ここ数年、タイトルを勝ち取ってきた経験。
国立のカップファイナルで“勝ったことがある”経験。
そしてアジアの猛者たちと真っ向勝負を繰り広げてきた経験。
それらは全て、この“ファイナル”という大一番でこそ、存分に発揮される。
以上
2013.11.01 Reported by 鈴木潤