試合後、星野悟はピッチの上で泣いていた。
第38節の岡山戦で3年目のサイドアタッカー星野悟が全2ゴールに絡むベストパフォ−マンスをみせて勝利に大きく貢献した。チームメイトの不祥事が発覚した直後のホーム戦。クラブにとって信頼回復、そしてJ2残留がかかる極めて重要なゲームだった。チームは出場停止とケガ人が重なるスクランブル。その試合で星野は今季初先発を言い渡された。
「ゲームの重要性を考えたらもちろん怖さもあった。だれにも言わなかったけど試合前のロッカールームでは緊張で手足が震えていた」。
クラブの命運がかかるゲームのピッチに立った星野は前半32分に大きな仕事をやってのける。小林竜樹からのパスをペナルティエリア左で受けた星野は内へと切り返して顔を上げた。その刹那、「打て!」という小林の声を聞いた星野が放ったシュートは滑らかな弧を描いてファーサイドのゴールネットへと吸い込まれた。
追加点も星野のオーバラップから生まれた。後半25分、青木孝太のパスをDFラインの裏で受けて左足でシュート。それはGKに阻まれたがこぼれ球を小柳達司が蹴り込んで、追加点を演出してみせた。試合終了のホイッスルが鳴り響くと、自然に涙がこぼれた。ヒーローインタビューの場に立った星野は「チームの勝利だけを考えてプレーした結果がゴールにつながった。3年目でやっとチームに貢献できた」と汗をぬぐった。
試合後、昨季まで一緒にプレーしたふたりの先輩から連絡を受けたという。そのひとりはJFL・ブラウブリッツ秋田の熊林親吾。星野に技術的なアドバイスをしていた熊林はJ初ゴールを称えるとともにプレーの助言を行ったという。そしてもうひとりは横浜FC松下裕樹だった。その内容は「2点目を決められないのは、まだまだ甘い」というものだったというが、無骨なファイター松下らしい賛辞と言える。
先輩ふたりから祝福を受けた星野は「クマさん(熊林)には昨年までいろんなアドバイスをもらったし、マツさん(松下)にはプロとしての姿勢を教えてもらった。特にマツさんは毎日厳しく言ってくるので本当は嫌だったけど(笑)、今年いなくなってしまって初めてオレのために言ってくれていたことが分かった」と先輩への感謝を示した。
今季、星野は地道な努力を続けていた。そしてついに結果を残した。だがここがゴールではない。涙の先にはもっと大きなフィールドが広がっている。
以上
2013.10.31 Reported by 伊藤寿学