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【J1:第29節 大宮 vs 大分】レポート:復活のカメナチオ。大宮の猛攻をしのいだ大分、セットプレーの1点を守りきる(13.10.20)

リーグ戦ではここ13試合で1勝12敗の大宮と、16試合勝星がなく前節で降格が決定した大分。喉から手が出るほど勝利に飢えていたと同時に、互いに「この相手に負けは許されない」対戦でもあった。
それだけに、試合終了後のピッチには残酷なまでに明暗が分かれた。明はもちろん大分。熊谷まで駆けつけたサポーターが勝利の凱歌「大分よりの使者」で迎えると、選手たちも肩を組んで飛び跳ね、喜びを分かち合う。一方、大宮ゴール裏では、温厚さで知られる彼らには珍しいことだが、選手たちがサポーターに向かって歩き出した時点で、大音量のブーイングがスタジアムを包んだ。向けられた怒りの大きさに、選手たちの足取りは重い。トラック付きの陸上競技場だけに、スタンドに対峙するまでの時間もいつもより余計に長かった。整列しての一礼には、応援に対する感謝というより、敗北に対する謝罪の意味が大きいように見えた。

大宮は代表招集から帰ったばかりのノヴァコヴィッチとズラタン、ニールをベンチに温存し、2トップは長谷川悠と富山貴光。大分は1週間前の天皇杯3回戦から実戦導入した4バックで臨んだ。
天皇杯では新潟にたやすく崩される場面も目立った大分の4バックだが、この日は素晴らしいバランスと集中を見せた。しっかり4-4-2の3ラインを保ち、前線から連動して最終ラインを押し上げ、ブロックの中で大宮に自由を与えなかった。高い最終ラインの裏を何度か大宮に突かれ、ピンチになりかけたが、それでも勇気を持ってラインを下げず、逆に前線からの守備で有効なボールを蹴らせなかった。ポゼッションで優位に立ったのは大宮だったが、縦パスを入れられず、ブロックの外に運んでのクロスしか攻め手がなく、前半の大宮のシュートはわずか2本に終わる。
一方で、和田拓也の目に「大分は0-0でOKなのかな」と映ったほどに、守りを固め、森島康仁にロングボールを集めて少ない人数で攻めきるシンプルな攻撃には、得点の匂いは薄かった。それでも前半アディショナルタイムの、まさにラストプレー。左コーナーキックからショートコーナーでつなぎ、為田大貴がドリブルを始める。この瞬間、大分のチーム全体に、「ここで点を取りに行く」という迫力がみなぎった。中央まで運んだ為田から右サイドのチェ ジョンハンへ。そこからクロスは森島に届かなかったが、混戦からボールが阪田章裕の足元にこぼれる。「何となく下を見たらボールがあった(笑)」という阪田が右足でゴールに流し込む。チーム全体で勝負どころを見極めて、ゴールに結実させた、その一体感は見事だった。

後半、攻める大宮、守る大分の図式はさらに鮮明になった。後半の大分のシュートはゼロ。大分が引いて構えたことで、大宮は押し込んではいたが、同時に、攻撃に使えるスペースはさらに少なくなっていた。チャンスを作れないならば、ゴール前の選手の質を上げるべく、60分にノヴァコヴィッチ、67分にズラタンを投入するが、それも大分の脅威にはならなかった。ただでさえヨーロッパから長距離移動の疲労が残っているのに加え、大分番記者の証言によると「練習では外国人2トップ対策ばかりやっていた」という守備陣の激しいマークを受け、ボールが入ってもセンターバックとボランチに囲まれた。
スロベニアン2トップが期待された質を見せられない状況に、77分には左サイドバックに村上和弘を投入し、下平匠を1列上げてより高い位置からのクロスに期待をかけるが、大分もFWの西弘則を下げて辻尾真二を送り込み、2列目を厚くした4-5-1の布陣で応戦。「1列上がったけど厳しくプレスに来られて、クロスを上げるのが難しかった」と、下平は唇を噛んだ。チャンスになったのは今井智基の走力を生かした単独突破や、ズラタンとのワンツーによる突破からのクロスしかなく、終盤に前線に上がっていた菊地光将のヘディングがわずかに逸れる惜しい場面もあったが、ゴール前を固める大分の守備にはね返され続けた。

圧倒的にボールを支配しながらも、攻め手を欠き、セットプレー一発に沈んだ敗戦は、サポーターのブーイングも仕方ないストレスの溜まる負け方だった。一方でその勝者にとっては、会心の勝利に違いない。「しっかり守ってカウンター、リスタートで勝機がある」(田坂和昭監督)というゲームプランを見事に遂行した。大分サポーターにとっては、「こういう戦いをもっと早くからやっていれば……」と思っただろう。降格決定後に「トリニータの未来を考え」(田坂監督)たその結果、逆に理想主義から現実的に勝点を拾うサッカーになっている点は興味深いが、とにかくこの集中した素晴らしい守備と、少ないチャンスに勝負どころでもぎとるしたたかさは、今後の対戦相手を苦しめるだろう。
大宮はこれでリーグ戦5連敗と、低調の極み。チャンスは少なかったが、サイドからのクロスの本数自体は多かった。練習ではクロス精度の向上と、クロスへの入り方、そのタイミングを、時間をかけて取り組んでいるものの、「練習でやってきたことがなかなか試合では出ない」(小倉勉監督)状況だ。象徴的なシーンが29分、渡邉大剛のパスを受けた今井がワンタッチで速いクロスを送ったとき、中央に入れる大宮のアタッカーは3人いたが、全力でマークを外して入り込むような動きはなかった。実にもどかしく、今はこのトンネルの出口が見えない。

以上

2013.10.20 Reported by 芥川和久
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