16日、西日本新聞社の一面トップで「アビスパ資金繰り悪化」のショッキングな見出しで、福岡の経営危機が報じられた。しかし、雁の巣球技場では、選手たちはいつもと変わらぬ姿でボールを追う。練習メニューのインターバルでは、誰が声をかけるということでもなく、あちこちに輪ができ、それぞれの問題点を話し合いながら修正点を確認する。その姿からは、シーズン当初のように高いモチベーションを持ってトレーニングに臨んでいること窺える。古賀正紘は話す。
「クラブが置かれている状態を考えれば、ピッチで結果を出して、少しでもいい方向へ行くような流れを作っていきたいという高いモチベーションがある。それは1人、1人にも言えること。こういった状況に陥ったのは経営者の責任だけではなく、結果で応えられなかった選手にも責任はある。残された試合の中でやれることを全力でやる、いつも以上に力を発揮できるように頑張る、それがプロとしてやらなければならないこと」
残された6試合に選手としての力の全てを発揮する。それがチームの想いだ。
そして福岡は、鳥取をレベルファイブスタジアムに迎えて第37節を戦う。鳥取は、ここまで5勝13分18敗の最下位。第22節の山形戦の勝利を最後に勝ち星がなく、8月12日には、前田浩二強化部長が兼任で監督に就任して事態の打開を図ったが、現在は3連敗中。J2残留争いの真っ只中にいる。しかし、だからこそ高いモチベーションで試合に臨んで来る。鳥取にとっては勝つ以外に現状から抜け出す方法はなく、福岡と同じく、目の前の1戦に全てをかけて戦ってくるからだ。しかも、通算対戦成績は1勝1分1敗の五分。気が緩むようなことがあれば間違いなく足元をすくわれる。
鳥取の戦い方は、まずは全員が自陣に引いてブロックを形成して守備を固め、少ないチャンスを活かしてゴールを狙うというもの。エース・久保裕一をコンディション不良で、DFのドゥドゥを累積警告で欠くが、残留のために必死で戦うチームは、それをカバーする気迫を持ってぶつかってくるはずだ。注目すべきは、豊富な運動量でアグレッシブなプレーを見せる右MFの奥山泰裕と、左サイドから中へ切れ込んでゴールを狙う永里源気。特に、スピードと一発の決定力を持つ永里は要注意。高い位置で不用意な形でボールを失うと、失点につながりかねない。
一方、福岡は怪我の城後寿に加え、坂田大輔、金森健志、岡田隆を出場停止で欠く布陣。その影響が少ないとは言い難いが、リーグ戦もここまでくれば総力戦。全員の力で乗り越えなければならない。ここまでメンバーを固定せず、時には布陣を変えて戦ってきたのは、こういう日のためのもの。この試合では誰が出ても福岡のサッカーに変わりがないことを証明しなければならない。
互いの順位、チーム状況、戦い方等々を考慮すれば、福岡がボールを支配する形で試合が進むものと思われるが、守備を固めてくる鳥取に対し、時間をかければかけるほどゴールを奪うのは難しくなる。本来の形である高い位置で奪って、素早く、シンプルに攻める形を、どれだけ作ることが出来るかが福岡にとっての鍵。また、プノセバッチの高さも有効に使いたいところだ。出場停止明けの金久保順が、どのように攻撃のタクトを振るのかにも注目だ。
そして、先発起用が濃厚な西田剛は次のように語る。
「鳥取戦は、北九州戦同様に意地の試合。ここで負けてしまったら、北九州戦の勝利は何も残らない。鳥取戦は内容ではなく、とにかく勝つことだけを考えて、意地でも勝ちに行く。クラブ経営は厳しい状況にあるが、我々はピッチで結果を出すだけ。スタジアムに足を運んでくれるファン、サポーターのために、我々の勝利と戦っている姿をピッチの上で表現しなければいけない。それだけを意識して戦いたい」
勝利するためには戦術、技術はもちろん必要だ。しかし、それ以前に、戦う姿勢を発揮できなければ、それらを活かすこともできない。
試合は10月20日(日)の14:00にキックオフ。当日は「学生Day」と称されたイベントが行われ、福岡大学の学生を中心にかなりの数の動員が見込まれている他、「Kidsパートナー」事業の一環として、先着1000名の小学生を招待する予定もある。いつもスタジアムに足を運ぶファン、サポーター。新たに足を運び福岡を応援してくれる学生。そして未来を担う子どもたち。そうした人たちの想いと、ピッチで戦う選手たちの力をひとつにして戦うことこそ、福岡がスローガンに掲げる「福岡力」。経営的にも、成績的にも厳しい状況に置かれている福岡だが、だからこそ持てる力の全てを見せたい。それが福岡の未来へとつながっていく。
以上
2013.10.19 Reported by 中倉一志