完敗だったヤマザキナビスコカップ準決勝・浦和戦から中3日。2日間の練習だけで臨んだ天皇杯東京V戦において、風間八宏監督はサッカーの内容を転換した。リーグ戦の名古屋、柏戦、ヤマザキナビスコカップ浦和戦と続いた内容の乏しい3試合について、風間監督は「マンネリ過ぎた」と表現し「つまらないと思った」と話す。だからこそ、敗戦をきっかけに選手たちの闘争本能をくすぐり、全く別物のサッカーを作り出した。それが天皇杯東京V戦の前半の戦いだった。「一夜漬け」(風間監督)の準備ではあったが、試合開始早々に2点を奪い、さらに決定機を作り出す。内容と結果とがシンクロしたサッカーを出せたのは、そもそも選手たちが身につけてきた技術的なバックボーンがあるから。つまり、東京V戦に向けての準備は、新しいものを一から作るのではなく身につけていたものを「思い出させる」作業だったのである。
このサッカーの内容の転換については、さすがに2日間しか準備期間がなくハイリスクだと言わざるを得ないが、逆に言うと選手たちの能力とここまで積み上げてきた技術があればやれるはずだ、との信頼が風間監督にはあったわけだ。そしてその期待に選手たちは、時間は限定されるが、ある程度応えた。磐田戦に向けてこの天皇杯東京V戦での戦いを突き詰めるのだろうと選手たちは覚悟しているが、それには中盤でのボール保持が重要だと大久保嘉人は話す。
「中盤でためられたら主導権を握れるからね。オレはそれに徹してた。で、取られたらすぐに囲い込むというか、あそこを支配するのは大事」と述べ、東京V戦で与えられていた大久保自身の役割について振り返る。そして「それを憲剛さんはできるから」と話し、中村憲剛の復帰に期待をかけていた。東京V戦では中盤での巧さを見せた大久保ではあったが、やはり得点を取りたい選手であり、できればFWとして試合に出たい。だから、彼が東京V戦でやってみせた役割を、普段からやってきた中村に託したいのである。
「(磐田戦について中村の出場は)大丈夫でしょ、憲剛さん。やってほしいよ。リーグ戦は残り少ないし」(大久保)
大久保から復帰を期待される中村は、ご存じの通りヤマザキナビスコカップ浦和戦の試合中に腰を痛め療養に努めていたが、17日の練習からチームに合流。復帰時期についての感触として「1日早い」と述べている。ただ、ボール回しやミニゲームなどで構成された練習を終え「ダメでしょ。これでは試合に出られない。思い描いている動きができてない」と厳し目の自己評価にとどまっている。プレーできる程度には腰は回復しているが、18日の段階では完治とはいえない状況にあるという。ただ腰は日々回復しており、休まなければならないというほど酷くもないという。中村は、チームが東京V戦でやってみせた戦いについて「チャレンジし甲斐がある。守ってカウンターからスタートするよりも、やりたいことをやろうと。それが東京V戦でハマったかな」と習得に前向きだった。ただし「磐田にどれだけハマるのか心配」とも述べ、楽観視すべきではないと戒めていた。
中村が磐田を警戒するのは、一つには個人能力の高い選手が揃っているから。例えば右サイドバックで出場する駒野友一の攻撃は大きな脅威となるだろう。前節の仙台戦では、何度となく右サイドを駆け上がり、精度の高いクロスを入れ続けた。ゴール中央でターゲットとなるのは前田遼一で、ヘディングはもちろん、周囲の選手を使うポストとしても機能する。2列目に入る小林裕紀も高い技術を持っており、警戒が必要だ。また前節の仙台戦では、シーズン途中に加入した安田理大が途中交代出場しており、サイドでの1対1を制してクロスボールを上げるなど危険なプレーを見せていた。
その磐田を率いるのが、関塚隆監督である。シーズン中に監督人事が断行された磐田に、今季途中から招へいされ、攻守のバランスを考えたサッカーを作りつつある。守備時にはしっかりとブロックを作って守り、攻撃では個々の良さを引き出している。ある程度相手に持たせてからのカウンターも鋭さを見せている。
この試合において川崎Fは攻撃的な姿勢を見せるだろう。前にボールを運び、ミスしない前提で人数を攻撃に割くはず。そして奪われたボールを高い位置で奪い返し、波状攻撃を仕掛けたいはずだ。しかし、このサッカーは現状90分間続けることが難しく、どこかでギア・チェンジする必要がある。また、そもそも磐田は守備ブロックを形成して川崎Fの攻撃を簡単には許さないだろう。そして、ボールを奪った瞬間にカウンターのスイッチを入れるはず。川崎Fがカウンターを受ける場面も出てくると思われ、それに対してどう備えるのかは試合の行方を左右するポイントの一つとなる。
勝点45の川崎Fは、ACL出場圏獲得(3位以内)と大久保の得点王を狙っており、この試合は勝たねばならない戦いだと言える。ただ、28試合を終えて勝点は20にとどまる磐田が相手だからといって楽観視するべきではない。磐田は降格の危機に瀕しており、だからこそ必死で勝点3を取りに来るだろう。立ち上がりに圧倒した東京V戦も、徐々に中だるみし、後半開始早々に決定機を作られた事を思い出すべきだ。川崎Fとしては全力で戦い着実に決定機を作り出したい。そして体力的にきつくなれば、試合をコントロールする必要もあるだろう。そうやってしっかりと勝ち星を手にしてほしいと思う。川崎Fを今の姿へと成長させてくれた関塚・元監督に、全力での戦いを見せてほしいと思う。
以上
2013.10.18 Reported by 江藤高志