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【J1:第27節 大宮 vs F東京】レポート:試合を決めた“若々しい”ベテランの3発。大宮、自滅の末の惨敗(13.09.29)

会見でのポポヴィッチ監督は上機嫌だった。「チームにとって大きかったのは、若い選手がゴールを量産したこと」というユーモアは、通訳を介して伝わるのに多少の時間はかかったが、「プレーだけを見れば、若いと思いませんか?(笑)」との言葉に、会見場は笑いに包まれた。先制弾、同点弾、逆転弾、F東京にとって試合の流れを作ったゴールはすべて、この一度は現役を引退した34歳によるもの。意外にも、ルーカスにとってはこれがJ1リーグで初のハットトリックだった。

立ち上がりはF東京が大宮を上回った。6分には東慶悟の横パスを中央の渡邉千真がシュート。これは江角浩司がセーブしたが、長谷川アーリアジャスールが今井智基とニールの間に走り込む動きが効いていた。
そしてその1分後にも、同じ形で東がボールを持つ。今井を引きつけた東が、ニールの裏に走り込んだ長谷川アーリアジャスールにボールを送ると、折り返しをファーサイドから詰めたルーカスがゴールに突き刺した。大卒新人サイドバックと、夏に加入したばかりのオーストラリア人センターバックの連携不足がF東京のねらいで、「練習でやっていた形」(東)だった。

しかし大宮も負けてはいない。大宮も当然、相手の攻略法は用意していた。センターバックやボランチからサイドに展開し、サイドハーフとサイドバックの連携からクロスの形で、こちらも開始3分には、高橋祥平のパスを渡邉大剛がスルーし、今井智基がアーリークロスを送ってチャンスを作っていた。先制されてからも最終ラインを下げず、前線から連動したプレスで、高い位置でボールを奪う。特にボランチに入った和田拓也が素晴らしいパフォーマンスで、中盤でボールホルダーを追い回し、ピンチの芽を摘み続けた。
そして13分、高橋祥平の素晴らしいサイドチェンジから渡邉大剛のクロス。さらに37分、和田からのパスを下平匠がワンタッチではたき、チョ ヨンチョルがクロス。いずれも練習通りの形から大宮が逆転に成功した。

前半の主導権は大宮にあった。それだけに、前半アディショナルタイムの失点は、小倉勉監督はじめ選手だれもが「2-1のまま終われれば違ったと思う」と口をそろえた。大宮は自らのチャンスが潰えた直後、F東京のカウンターに切り替えが遅れ、左サイドで数的不利を作られて簡単に突破された。渡邉千真のクロスに中央で合わせた長谷川アーリアジャスールのシュートは江角浩司がビッグセーブしたが、そのコーナーキックをルーカスに決められる。「前半はこのまま終わらせるとか、11人の意識がそろっていればああいうやられ方はしないと思う」と、和田拓也は唇を噛んだ。

後半、少なくとも逆転されるまでの大宮は、それほど悪かったわけではない。立ち上がりこそF東京の勢いを受けてしまったが、カウンターの応酬となった55分までの間にいくつかチャンスになりそうな場面は作った。その後は互いに中盤でのプレッシャーが的確で、やや試合はこう着したが、66分に試合を動かしたのはまたしてもルーカス。F東京のコーナーキックから、太田宏介のシュート性のクサビをペナルティエリア内で受け、振り向き、2人をかわしてゴールへ流し込む熟練の技。ここで勝負はほぼ決した。

大宮の運動量が落ち、FWからのプレスがかからなくなったことで、「ファーストディフェンダーがサイドハーフかボランチになってしまい、押し込まれてボールを回されてしまった」(和田拓也)。攻守において前線と中盤以降でイメージが共有できず、攻めは中央ばかりになり、あれだけF東京を苦しめていたサイド攻撃もほとんど見られなくなった。それはもちろんF東京の守備が素晴らしかったからでもある。特にルーカスの献身ぶりは、確かに若々しいとまで言えた。と同時に、大宮が落ち着こうとしたところ、勢いに乗ろうとするところで、猛然とプレッシャーを掛けに行く、そのゲームを読む力は、まさに熟練の味だった。

終盤の大宮は自滅とさえ言えた。中盤の守備で効いていた和田拓也と交代した上田康太は、ボールを効果的に動かして時間を作ること、局面を打開するパスを期待されていたはずだが、高い位置でほどんどボールを受けられず、守備とクリアに忙殺されていた。逆にF東京は、ピッチをワイドに使って大宮を揺さぶる。大宮はチームというより、拠り所ないままに個人個人が頑張っているだけの集団に見えた。
そして88分、今井智基を下げて長谷川悠への交代で、その混乱はピークに達する。「フォーメーションとしては3−3−4だと、悠から聞いた」と渡邉大剛は言う。しかしそれがすべての選手に伝わらないまま試合は進んだ。「前線に人数をかけるんだなというのは分かったけど、どこにだれがいるのかがはっきりしなかった」(下平匠)中で、90分、長谷川悠が中盤の低い位置まで下りてボールを受ける。出しどころを探しているうちにF東京に寄せられた長谷川悠の苦し紛れのサイドチェンジを、平山相太がカットして前線へ。先に追いついた高橋祥平が江角浩司にバックパス。しかし江角浩司のキックは、至近距離にいた三田啓貴に渡ってしまう。絶望的な2点差。

アディショナルタイムは5分あったが、この時点で席を立って帰り始めるサポーターがいたのも無理はない。目の前でチームがバラバラであることを見せられてしまったのだから。もちろん江角浩司のミスは責められるべきだが、そこに至る混乱を生み出したベンチの責任は大きい。もはや選手たちの気持ちは完全に切れていた。前線にFWを4枚並べてパワープレーのはずが、ほとんど前線へのクロスが上がらない。どころか、ほぼマイボールにもできなかった。90+4分に平山に5点目を叩き込まれたときも、なすすべなく中央突破を許し、悔しがる気力も残っていないように見えた。大敗というよりも、惨敗という言葉がふさわしかった。

試合後、アウェイゴール裏では勝利の凱歌が響き、ホームゴール裏はブーイングで選手たちを迎える。明暗は残酷に彩られた。4連勝のF東京は5位に浮上し、首位まで勝点8差、ACL自力出場権の3位まで4差と迫った。3連敗の大宮は順位こそ1桁の9位に踏みとどまったが、次節の結果次第では13位転落もあり得る。
次節、大宮はアウェイでのさいたまダービー。大宮は過去、秋のアウェイでのさいたまダービーに勝利することで、どん底の状況からチームを立て直してきた歴史がある。小倉勉監督は試合後のインタビューで、「これからは現実的な戦い方もしなければいけない」と語った。このF東京戦は厳しかったが、ダービーを前に目を覚まさせるきっかけになったと、後からそんな思い出になることを祈っている。

以上

2013.09.29 Reported by 芥川和久
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