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【J1:第27節 名古屋 vs 川崎F】レポート:決定力以上にゲームマネジメント力の差が勝敗を分けた一戦。川崎Fにシーズン2敗を喫した名古屋は3連敗で13位に後退(13.09.29)

決定力の差といえば、そうとも言える。名古屋は相手の倍以上となる18本のシュートを打ちながらも、得点は1点のみ。前半3本のうち1本を、後半4本のうち1本を着実に得点につなげた川崎Fの決定力は確かに高かった。しかし、その数字以上に際立ったのは、試合時間90分をデザインする力、つまりゲームマネジメント能力の差だった。

名古屋が悔やまれるのは、前半の20分までに得点が奪えなかったことだ。キックオフから怒涛のようなプレッシングを展開し、川崎Fを一気に押し込んだ。開始3分でペナルティエリア近くでの直接FKを得たのを皮切りに、7分には阿部翔平のクロスからケネディが決定機を迎えた。これは惜しくもゴールマウスを外れたが、続く13分と14分にはこの日スタメン起用された永井謙佑と磯村亮太がシュートを放ち、18分にはコーナーキックから3戦連続スタメンを勝ち取った牟田雄祐がゴールに迫った。永井は俊足を生かした猛烈なフォアチェックで次々と敵陣でのボール奪取に成功し、途切れることのない攻撃もアシスト。「あんなにプレッシャーが激しく来るとは予想外でした」(川崎F・井川祐輔)と相手に思わせるほど完全に主導権を握ったのだが、いかんせんフィニッシュの精度を著しく欠いた。勝負にタラレバは禁物だが、それでもこの20分間の猛攻で先制点を奪えていれば、試合結果は違っていたかもしれなかった。

しかしその点で、川崎Fは実に冷静でもあった。「あの15分で失点していたら厳しくなっていたかもしれないけど、それを耐えられた。あのプレスを90分続けられるチームはどこにもないと思うので、しっかり集中してディフェンスができた」(川崎F・稲本潤一)。名古屋の勢いに持ち前のパスワークで対抗することも考えつつ、我慢の展開を受け入れた。風間八宏監督は「最初の15分から20分の間、なかなか相手が制御できなかったが、その中で対応していったことが成長したところ」と選手を称えたが、11人が同じ意識での試合運びを実践したことで、自ずと反撃の流れも生まれた。最初のチャンスは小林悠を起点にした17分のカウンター。そこから徐々に、川崎Fは息を吹き返していった。

そしてこの一戦のターニングポイントとなる先制点が、思いもよらぬ形から生まれる。33分、名古屋のシュートがDFにブロックされると、大きく跳ね返ったボールが前線でフリーになっていた大久保嘉人の元へ。大久保は一気に駆け上がり、対面にいた田中マルクス闘莉王との1対1を制して約50mのドリブルシュートを決めてみせた。まさに乾坤一擲、これぞ得点ランクトップを走るストライカー、という説得力十分の一撃は川崎Fにさらなる勇気を与えた。「なかなか自分たちの思うような試合運びができなかった中で先制点を取ってくれて気持ちが楽になりました」とは井川祐輔。この得点を境に、試合の主導権は川崎Fの元へ転がり込んだ。

後半も試合の展開自体は変わらなかった。名古屋は試合序盤ほどの激しいプレッシングは見せなかったものの、あらゆる角度からチャンスを演出。15分までに5本のシュートを打ち込むなど、迫力ある攻撃を展開した。15分には藤本淳吾に代えて玉田圭司を投入。27分には中村直志が負傷により矢野貴章と交代したが、そこから磯村が2度のチャンスを得るなど勢いを失うことなく攻め立てた。そして38分には最後のカードとして磯村に代えてDFのダニエルを入れ、闘莉王を中盤にコンバート。さらなる圧力を川崎Fのゴール前にかけることを目論んだ。

だが、好事魔多し。前がかる名古屋の隙を、川崎Fは見逃さなかった。84分、小林が自ら持ち上がったカウンターは一度はプレスバックしてきた小川佳純に阻止されたが、クリアにもたつくところで再度ボールを奪取。「ウチがフィジカル的にだれてきた時に前から詰めてきた」(名古屋・阿部翔平)と周囲の選手も素早く囲い込み、最後は森谷賢太郎が粘り強く押し込んで追加点を手に入れた。この後、アディショナルタイムに名古屋の田中隼磨に1点を返されることを思えば、非常に大きい得点だったと言えるだろう。逆に名古屋にとっては、前節の2失点目同様にプレーの選択ミスから起きた失点であり、ショックは大きい。最初の失点に関しては「偶発的なアクシデントから、大久保にプレゼントを贈ってしまった」と語ったストイコビッチ監督も、2失点目に関しては「ノーコメント」と切り捨てた。

ここで、冒頭に記した「ゲームマネジメント」という言葉が意味を持ってくる。名古屋は確かに川崎Fを90分通して押し込んだ。それはシュート数にも表れている上に、見た目の印象としてもそうだ。しかし、川崎Fはそれを織り込み済みで試合を進めた。ボールを支配されても焦らず、要所をきっちり抑えることに集中した。守備については稲本の説明が明朗だ。「僕と後ろのセンターバックや僕と(小林)悠、(山本)真希だったりの距離感がすごく良かった。名古屋がボール回しの時は3バックになってサイドをすごく上げてくることはわかっていたので、サイドでのバックパスや横パスに対してしっかりプレスをかけられていたから怖くなかった。あとはケネディに対するボールのセカンドボールを拾っておけばよかったので、しっかり90分集中してできた」。ボールを奪えば大久保を起点にゆったりと、しかし後ろに下げることなくキープし時間を使った。ゴールに迫る回数は少なくとも、大久保の存在で名古屋のDFラインは常に緊張していた。要するに、川崎Fの思うつぼだったわけだ。

名古屋はこれでリーグ3連敗、天皇杯を合わせれば9月の公式戦で4連敗となった。リーグ戦の順位は13位まで落ち、得失点差もマイナスに突入した。試合後の監督と選手たちからは「良くなってはきている。勝てなくて残念」というニュアンスの言葉が聞かれたが、それが完敗を喫した前節との比較であることを忘れてはいけない。真実は「自分たちに実力がないので勝てないと思っている。内容は悪くはありませんでしたが、それで結果が出ないのはかえって良くない」という田中隼の言葉にある。リーグ再開以降、名古屋は戦い方を変えていない。それで得られる結果にバラつきが出ていることの意味を、もう一度考えるべきだ。この日負傷交代した中村直志をはじめ、主力のコンディション不良が目立つ中で迎える次戦のアウェイ・湘南戦は、彼らの“実力”が測られる。

以上

2013.09.29 Reported by 今井雄一朗
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