AFCチャンピオンズリーグにおけるアウェイの戦いは非常に厳しい。長距離移動、異国文化、風習の違い、さらに国際試合独特の張り詰めた緊張感が漂うスタジアムの雰囲気など、ピッチの内外を問わず国内の大会とは大きな違いがあり、それらにどう適応していくかがACLを戦い抜く鍵となる。
今シーズン、ACLに出場した柏以外3チームのアウェイでの成績を振り返ってみると、浦和が唯一ムアントンに勝利しただけで、総じてアウェイ戦には苦しめられた。
柏がACLでここまで勝ち上がれている最大の要因は、アウェイで結果を残したからだと言っても過言ではない。もちろん楽な試合など1つもなかったが、終わってみれば「アウェイ全勝」という見事な結果を残した。
「単純に昨シーズンの経験が生かされているからだ」と、ジョルジ ワグネルはアウェイ好調の理由を述べる。初戦の貴州人和戦は、アウェイ戦の中でも“難関”とされる中国での試合だった。Jリーグとは全く異質な空気が取り巻くあのピリピリとした雰囲気と、なんでもないボールが柏陣内に転がっただけで、あたかも「チャンス到来」とばかりに沸き上がるサポーター。しかし「去年、広州を経験していたから落ち着いて試合に入れた」(大谷秀和)というように、昨年広州で中国のアウェイ戦を経験していた選手たちは、その雰囲気に飲まれることなく冷静に戦い、クレオの移籍初ゴールで1−0と勝利を収めたのである。
ACLアウェイ戦では、長距離移動やスタジアムの雰囲気、文化の違いだけではなく、偏ったレフェリングに苦しめられることもある。それを象徴する一戦がグループステージ第3戦、水原戦だ。この試合では、足裏を見せた危険なタックルを柏の選手が受けた場合にはお咎めなしだったのに対し、柏は多少のボディコンタクトがあっただけでもすぐにホイッスルが鳴り響き、ファウルを取られた。一方的にイエローカードが出され、ついにはPKが4本も相手に与えられる始末。Jリーグではあり得ない事態となった。
ただ、選手たちは「こういうことはACLでは起こり得る」と割り切って捉えていたため、偏ったジャッジに苦しめられたのは確かだが、リズムを崩すことなく試合を運ぶことができた。菅野孝憲、決死のPKストップがチームを救い、さらに田中順也、工藤壮人、栗澤僚一が2ゴールずつを挙げ、アウェイの日韓戦を6−2と快勝した。
グループステージ第6戦は、セントラルコーストからすれば貴州人和と2位の座を争う大事な一戦である。しかもセントラルコーストは直前の国内チャンピオンシップで優勝を成し遂げたばかり。優勝した勢いそのままに、初のラウンド16を懸けた大一番を迎え、セントラルコーストサポーターの盛り上がりは尋常ではなかった。
対照的に、柏はすでに首位でのラウンド16進出を決めており、敗れても大勢に影響はない。ともすれば“消化試合”という位置付けもできたが、「レイソルがピッチに立つのは勝つため」とネルシーニョ監督は哲学を貫き、フルメンバーを送り込む。終わってみれば、工藤、クレオ、レアンドロ ドミンゲスのゴールで3−0、豪州王者を一蹴する。
決勝トーナメントに入れば、アウェイ戦も激しさを増す。ラウンド16の第1戦の全北戦は、やはりグループステージを勝ち抜いてきたとあって、過去3戦とは比にならないほど大苦戦を強いられた。
全北の攻撃陣は、イ ドングッを筆頭に韓国代表クラスとブラジル人MFエニーニョで構成される。ベンチには190センチを越えるケビン オリスも控えるなど、フィジカルコンタクトの強さを前面に押し出したパワフルな攻撃が売りだ。ゴール前へ何度も何度もクロスを放り込んでくるあの執拗なまでのハイボール攻撃には嵐のような迫力があった。
それに対し、柏は鈴木大輔、近藤直也、渡部博文、増嶋竜也、最終ラインにセンターバックを4枚並べて応戦。それでも相当押し込まれ、23本ものシュートを浴びた。ゴールを割られてもおかしくはないシーンもあった。だが菅野の好セーブと守備陣が体を張って耐えしのぎ、攻めては工藤と増嶋が少ないチャンスを確実にモノにして2−0と勝利を飾った。
こうしたアウェイ全勝の要因は、昨年の経験を選手たちが生かしていることに他ならないが、少しでもアウェイの環境に適応できるようにと極力早めに現地入りのスケジュールを予定するなど、選手に掛かる負担やストレスの軽減に努めるクラブの尽力も忘れてはならない。事実、今回のアルシャバブ戦もまた、試合の4日前には日本を発ち、アウェイの地リヤドで準備を進める。
8月21日、ホームでの準々決勝第1戦は先勝できず、アドバンテージを握れなかった。しかし今の柏はアウェイの戦いに絶対の自信を持つ。これまで通りの戦い方を披露できれば、サウジアラビアで行われる第2戦では必ず結果は付いてくるだろう。
以上
2013.09.12 Reported by 鈴木潤