それは不思議な光景だった。鹿島の選手たちは、まるで地面に足が生えてしまったかのように、ボールを目で追うばかり。目の前にこぼれてきても、マイボールを奪われても、いつもなら踏み出すはずの一歩が動かない。中断前に培ってきた燃え上がるような闘争心は見られず、戦う集団はそこにいなかった。
「正直に言うと、虚を突かれた気持ちが強い。当然ながら、マリノスさんが良いプレーをしたことは讃えなければいけないが、自分たちがやるべきことをまったくやっていないことの方が、自分にとっては驚きでした」
普段から明るさを失わず、つねにポジティブなメッセージを発してきたトニーニョ・セレーゾは、今季初めてと言っていいほど沈んだ声で、試合をふり返っていた。
「そのあとからスイッチを入れ始めたのですが、相手のレベルを考えればそれだけ時間を与えてからでは、相手はペースを握り、自分たちの試合をしてしまう」
そう嘆いたとおり、横浜FMはきっちりと試合のペースを握り、一番の長所であるセットプレーから先制点を奪う試合巧者ぶりを見せつけるのである。
立ち上がりから、鹿島の右サイドに人を集めて攻勢に出ると、18分に、そのサイドからの崩しで得たFKから、中村俊輔が精密機械のような左足を振り抜き、ゴール左隅に芸術的な弧を描くシュートを突き刺す。
「良い意味で力が抜けた」
そう自賛したシュートは、落差がありながらスピードも速いキーパー泣かせもの。必死に止めようと跳んだ曽ヶ端準の手をかすめていった。
ホームで先制点を奪われてしまった鹿島は守備の安定を取り戻すと、30分辺りから、日本代表の栗原勇蔵がいない右サイドを攻め立てる。ロングボールはドゥトラを狙い、そのカバーに富澤清太郎が入るようになると今度はセカンドボールを拾えるようになり、何度となくゴールに迫るようになる。しかし、ダヴィが3度の決定機をいずれも決められない。特に3度目のシュートは、野沢拓也が高い技術でペナルティエリア内で相手をかわして打ったこぼれを、ゴールに決めるだけだったが、ボールはバーを越え高く舞い上がってしまった。
後半も、速攻から大迫勇也が中澤佑二をかわし、ゴールのファーポストを巻いていく渾身のシュートを放ったものの、これを榎本哲也が横っ飛びして防ぐ。再度、同じ場面からシュートを放ったが、これは惜しくも枠を外れてしまい得点が生まれない。逆に、79分、横浜FMは速攻から右サイドを崩し、小林祐三のクロスにマルキーニョスが飛び込んで2点目を決め、アウェイゲームだった第1戦をものにした。
樋口靖洋監督とすれば、まさに狙い通りの試合と言えるだろう。
「後半はどこで追加点を取るか、というなかで、守りに入るのではなく、2点を奪うこと、それがアウェイゴールという意味では非常に効いてくると考えて、良いバランスから2点目が取れたと思います」
試合後の舌もなめらかだった。しかし、すぐに気を引き締め、第2戦に気持ちを切り替えていたのが印象的だった。
対象的に苦虫を噛みつぶしたような表情を見せていたのが鹿島の選手たち。
「失点は僕のミスでボールを奪われたところからだった。自分で自分に腹が立ちます」
FKを与える要因となるミスをした西を筆頭に、どの選手も悔しさを滲ませていた。
「このアントラーズというクラブは伝統として、団結・結束というのが一番の売りであって、それが無ければチームとして成立しない」
試合内容にショックを受けていたセレーゾ監督は、何度もこの言葉を繰り返した。鹿島というクラブの根幹を成すものが見られなかったことに、強い危機感を抱いていたのだろう。「心配だ」とも口にした。だが、このままズルズルと引き下がるような選手たちではない。大迫勇也の「絶対に勝って終わる」という言葉を信じ、1週間後の第2戦を待ちたい。
以上
2013.06.24 Reported by 田中滋