かつて、日本のJリーグでプレーするために来日したブラジル人が、そのサッカーを見てチームメイトを叱り飛ばしたことがあった。
「日本人はいつも同じペースで試合をする。もっと試合の流れを読んでプレーしなさい」
そう言い続けて、日本一の強豪チームを作り上げたのがジーコだ。そして、勝利に対して徹底的にこだわるチームに成長したのが、鹿島アントラーズである。
相手の長所を消しながら、勝機が訪れる瞬間を見逃さず一撃で相手を仕留める。5月3日第9節に行われた横浜FMとの一戦も、まさにそうした試合となった。序盤戦から、中村俊輔のフリーキックが猛威を振るい、2位に付けていた横浜FMを相手に、その長所を出させない戦いを見せる。ゴール前でファウルをおかすことなく相手の攻撃を封じ込めるのだった。そして、73分に野沢拓也が芸術的なダイレクトボレーを決めて待望の先制点を奪い、思惑通りの試合展開を見せたのである。そのまま終われば、相手を掌の上でもてあそんだと言うこともできただろう。しかし、相手は底力のある横浜FM。アディショナルタイム、最後のプレーでファビオ アギアールに同点弾を叩き込まれ、手に汗握る熱戦は引き分けで幕を閉じたのだった。
もしかしたら、この試合を見たジーコは憤慨したかもしれない。だが、試合をコントロールしようとする意志や意図は十分にうかがえる内容だった。その証拠に、ジーコの盟友でもあるトニーニョ・セレーゾ監督は「非常にハラハラドキドキしてサッカーの面白さを感じられた試合だったと思う」と、試合内容を表した。拮抗した試合展開ではあったが、横浜FMの中町公祐が見せたボランチの位置からの攻撃参加は、ガッチリ噛み合って動かなくなっていた両者のバランスを崩す力を持っていたし、パワフルなダヴィの突進も紙一重のところでゴールとはならなかったが相手の肝を冷やす効果は持っていた。まさにハラハラドキドキの展開だったのである。
その対戦から2ヶ月弱の時間が過ぎ、中断期間にパワーアップした両チームが再び相まみえる。
「まずは勝つこと。アウェイゴールとか気にしてられない。とにかく両方とも勝てばいい」
そう言い放ったのは大迫勇也。FWとしては、自分のゴールでチームを勝利に導くことが理想だろう。しかし、それは闇雲に攻めるという意味ではない。
「前はお互いに相手の良さを消す戦いになった。今度は、こっちは良さを出して、最後はサッと勝っているような試合がしたい」
そう話したのは西大伍。先の戦いでは攻撃力をある程度封印し、相手に隙を与えないことに重点を置いていた。しかし、手の内がわかった以上、それを上回るプレーを見せることを誓う。つまり、先の試合内容よりも、さらに高いものを見せるということだ。
お互いに守備は堅い。特に横浜FMの中央のブロックは強固だ。栗原勇蔵が日本代表に招集されているが、中澤佑二がいる最終ライン、富澤清太郎と中町のダブルボランチのプレッシャーは強烈だ。しかし、だからこそ、そこを突破したときは大きなチャンスとなる。代表入りを狙う大迫や柴崎岳が、どういうプレーを見せるのかに注目したい。
また、お互いにベテランが多いのも両チームの特長だ。小笠原満男、中村俊輔というリーグを代表するゲームメイカーを互いに擁する。ゲームの展開を読みながら、勝負の分かれ目をどこに見いだすのか。今回も目が離せない好ゲームが期待できるだろう。
以上
2013.06.22 Reported by 田中滋