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【J2:第18節 栃木 vs 福岡】プレビュー:今節の栃木のテーマは「克己」。不甲斐なかった前節の挽回を、ホーム“グリスタ”で果たす(13.06.07)

信じ難い光景が目に飛び込んできた。リーグ最少失点2位タイ(第17節終了時点)を誇っていた栃木のゴールネットが、前半だけで3度も相手に揺らされたのだ。リーグ最多得点を稼ぐ“最強の矛”に、“最強の盾”は突き破られた。まさに、想定外。首位・G大阪を撃破するために意気揚々とアウェイに乗り込んだが、待っていたのは衝撃的な敗戦だった。受け入れ難い現実と向き合うことはもちろん大切だが、いたずらに悲観的になれば悪循環に陥る可能性も高まる。
「ミスをしてはいけないけど、ガンバ戦のような試合は年に何回か起こる。敗戦から学ぶことは大切だが、色々と考え過ぎるのも良くない。それよりも、ガンバ戦を今後にどう活かすかが重要になる」
試合後の選手コメント、あるいは今週のトレーニングの様子から、松田浩監督は十分に前節の反省ができていると感じ取っており、失った自信も回復していると見て取っている。つまり、指揮官が「仕切り直しの一戦」と位置付ける、今節の福岡戦に向けた心身の準備は整ったと言える。連敗回避、失地回復を目指し、栃木は再びファイティングポーズを取った。

前節の大敗の原因は、自滅に尽きる。3失点はいずれもミス絡みで、堅守の看板に自ら泥を塗ってしまった。なぜミスが起こったのか。「セルフコントロールができていなかった」とはチャ・ヨンファン。G大阪というブランドに怯んだことで及び腰になり、結果的に自らの首を絞めてしまったのだ。守備からリズムをこしらえ、相手が焦れた隙にチャンスをものにするのが栃木の必勝パターン。その形に持ち込むには、試合の入り方が極めて重要になる。序盤から気持ちで負けては、容易に主導権を渡すことに繋がり、敗戦は必然となる。常々、松田監督が口にするメンタルを最高の状態、ゾーンに持ち込むことが、まずは求められるだろう。それを携えていなければ試合は成り立たない。「克己」。今節のテーマに、これほど相応しい2文字はないはずだ。

「福岡は前からも、人に対してもプレスに来る。それをいなせればチャンスになるけど、逆に引っ掛かると相手をスピードに乗せてしまう。しっかり繋ぐ所は繋ぎ、(局地戦を)抜けられないならばシンプルに裏に蹴るのも手だと思う。相手のやり方に付き合う必要はない」
果敢に前線からプレッシャーを掛けてくる福岡に対し、いかに冷静な判断ができるか。勝点3を得るための条件に、的確な判断を挙げたのは菊岡拓朗。前節はG大阪の圧力に屈し、ビルドアップが全く機能しなかったが、同じことを繰り返すわけにはいかない。局地戦をかいくぐり、その先にある広大なスペースを利用するためにも、「ビビらずにプレーすることが大事だし、1つ遠くを見る、ファーストタッチを意識したい」(山形辰徳)。相手の勢いを逆手に取り、サイドチェンジを多用して揺さぶり、1ボランチの両脇を丹念に突ければ、ゴールは確実に陥れられるはずだ。相手が音をあげるくらい、徹底的に弱みに付け込みたい。

勝点差2で5位・栃木を追う9位・福岡は、勝てば順位を逆転させられる大一番となる。しかし、今節は2試合連続ゴール中だった西田剛、守護神の水谷雄一、さらに中盤の底を担ってきた中原秀人、オズマールを欠き、主力不在の台所事情はかなり苦しい。いかに持ち駒を有効活用してチームを勝利に導けるか。情熱があふれ出て止まらない、マリヤン・プシュニク監督の手腕が問われる。

前節、福岡は熊本とのバトル・オブ・九州で最後の最後に被弾。1点を守り切れなかったが、GKがフィールドプレーヤーの城後寿だったこと、9人と数的不利を抱えていたことを考えれば、勝点1は悪い結果ではなかったと言える。また、こんな副産物もあった。GKを経験したことで城後はGK心理を理解できたようで、栃木戦に向けて「シュートを打たれるのが怖いということがわかった。次の試合からは、どんどんシュートを打っていきたい」と宣言。背番号10には勝点1の価値を高める仕事が期待される。

今節は栃木にとって4カ月の負傷離脱がリリースされた、“闘将”パウリーニョ不在で臨む2戦目となる。パウリーニョを中心に据えたチームを構築してきただけに、メンバー選考も含めて現時点では新たな方向性を模索している段階だ。明確なスタイルの確立には時間を要するが、いつまでも試行錯誤を続けるわけにはいかない。攻撃のタクトを揮う菊岡は、こんなイメージを抱いている。
「1人でボールを奪ってからのカウンターという形は少なくなるけど、互いの距離感を良くすることで、チームとしてボールを奪う機会を増やせればいいと思う。そうすれば、パウリーニョ1人でボールを奪っていた部分を補える。それに、他の選手には他の選手の良さがある。一概にマイナス要因だと考えずにプレーしたい」
パウリーニョが抜けても、リーグ屈指の守備組織が失われたわけではない。問題はそれを機能させることにある。1人が抜けたことで幾分か強度が弱まったならば、その分を他の選手が高い守備意識を持つことでカバーすればいい。攻撃に関しても同様のことが言える。攻守の切り替えのスピードと判断を上げればいいのだ。言うは易く、行うは難し。だが、やるしかない。今季はやれるだけの戦力が揃っているはずだ。そろそろ積年の課題を克服したい。

パウリーニョがいないから…。そんなことは、もう言わせない。

以上

2013.06.07 Reported by 大塚秀毅
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