殊勲の勝ち越し弾を決めた大久保嘉人は、中村憲剛にいい形でボールが入ったことを確認し、自らの仕事を遂行したという。

「いい感じで憲剛さんに入ったから、オレはディフェンスを振り切るだけでした」

一方の中村はその瞬間の大久保の動き出しについて「嘉人がいい動き出しというか、道が見えたので、そこに流し込めばやってくれると思っていて、その通りの動きをしてくれました」と述べている。

中村から出されたパスについて大久保は「そしたらあんなところにボールが来たからビビりました。ハイ決めてください、というところでした」と絶賛。80分に決まったこの2点目により川崎Ｆが新潟を振り切る事となる。大久保自身は「ハイ決めてください」との表現でパスの質の高さを強調するが、黒河貴矢を揺さぶるステップなどは見事。その点については風間八宏監督が「ケンゴと決めた2点目などは、彼（大久保）独特のゴールだと思いますし、ゴール前であれだけ落ち着けるというのは、本当にゴールゲッターかなと思います」と称賛の言葉を惜しまなかった。いずれにしても、パサーとフィニッシャーの質の高い共演により、実現した勝ち越し弾となった。

試合は、どっちつかずの前半を経た後半に大きく動いた。柳下正明監督は、内容をともわない前半について「前半、両チームとも少し集中が欠けるような、動きが一歩一歩遅れているような感じ」があったと説明しつつ、後半に入っての川崎Ｆのペースアップについて「後半に入ってからフロンターレの選手たちがスピーディーに前への圧力を掛けてきて、なかなか対応するのが難しかった」と述べている。

この前後半の内容の変化については風間監督が「前半は少し、最終ラインが先に引きすぎて相手にスペースを与えてしまっていた。そこをしっかり見直して、自分たちのサッカーを取り戻せたと思います」と述べ、最終ラインの高さや全体の距離感に問題があったのだと説明している。つまり、後半の頭から川崎Ｆが全体をコンパクトにした事により、新潟を押し込んだのである。

川崎Ｆが決めた先制点は、レナトの仕掛けがきっかけとなる。川崎Ｆがペースアップした後半開始早々の54分。福森晃斗からのスローインを受けた中村がルックアップする。

「その瞬間にレナトが右のサイドバックの選手よりも先にゴールに向けて走っていた」（中村）

中村からの浮き球のパスを受けたレナトが試合前日の24日に19歳になったばかりの川口尚紀に対して仕掛け、無理矢理な体勢からシュート。これにストライカーの本能をむき出しにした大久保が反応した。「オフサイドやったらほんとごめん、レナトごめん、という感じでした。そんなに考えてたらラインを割るし、と思いながら蹴ってた」と苦笑いするゴールが決まる。

試合内容的にこのまま川崎Ｆが逃げ切る展開が予想される中、新潟が起死回生のカウンターを成功させる。70分の場面。ボールを運んだのは川又堅碁で、対応したのは中村憲剛。ケンゴ同士の意地とがぶつかり合う中、中村の守備によって川又はシュートには行けず。しかし川又が折り返したボールを、途中交代出場の鈴木武蔵が押しこむ。鈴木にとってこれがリーグ戦初ゴールとなった。

「たまたまボールが来たので流し込むだけでした。途中から入ったので勝ちたかったです。去年はケガで3〜4ヶ月やっていなかったので、思ったよりもここまで（初ゴール）は時間がかかりました。これからももっともっとチームに貢献したいです」（鈴木武蔵）

試合展開的に新潟を圧倒していた川崎Ｆは、この失点によって意気消沈してもおかしくはなかったが、彼らの心が折れることはなかった。たとえば山本真希は「同点に追いつかれた後も、まだ時間はありましたしチャンスも作れると思っていました。今月はそういう状況でも勝てていましたし、そういう自信はありました」と述べている。失点はするが、それを跳ね返すメンタリティが川崎Ｆには備わっていた。川崎Ｆは、だてに13試合全てで失点していない。と書いていいものかどうか議論はあるが。

気持ちを折らさず、同じように戦い続けた事が80分の大久保の勝ち越し弾につながった。等々力の雰囲気が、川崎Ｆを後押しした。

試合後、新潟の田中達也は「追いつけているのに勝てないのはもったいないですね。もう少しチャンスを作れればと思います。1−1にまではなっているので点をとれるようにしたいです」と述べ、チーム力向上の必要性を口にしている。

一方の川崎Ｆは、12日に父を亡くした大久保が大活躍。試合になれば忘れるが、それでも弔いの気持ちを持っていたという大久保が亡き父に捧げる2ゴールを決め、新潟を振り切っている。この結果、川崎Ｆは5月は公式戦7試合を5勝2分けの成績で終えた。また等々力での公式戦無敗記録も8試合に伸ばしている。

以上

2013.05.26 Reported by 江藤高志