互いにゴール前でチャンスを作ったという点では、どちらに転ぶかわからないゲームだった。しかし、徳島からのバックスタンド500人、メインスタンド200人、計約700人のサポーターを含むkankoスタジアムに集まった8510人の脳裏には、岡山のFW荒田智之と桑田慎一朗が勤勉に続ける前線からのプレッシャーや、スライディングで止める守備、とにかく弾き返し続けたゲーム終盤のプレーが焼き付いているのではないか。組織的というよりも、もう少し気持ちの出た泥臭さのあるチームワーク。その点で、岡山が徳島に引けを取ることはなかった。
強い雨が降りしきる中でゲームはスタートした。徳島のフォーメーションは前節に続いて、高崎寛之、津田知宏を2トップに据えた【4-4-2】。岡山は積極的な立ち上がりを見せるものの、パスカットされることが多く、一方の徳島は前半23分、出場停止明けのMF柴崎晃誠がボールを奪ってシュートを放つなど、時間を追うごとに、共有したイメージを感じさせる場面を増やしていく。しかし、(岡山の守備を)「破るにはゴール前のアクセントとかミドルシュートとかそういったことも必要」と徳島のDF斉藤大介が話したように、徳島は奪ってスピードを上げ、ショートパスを繋いで岡山ゴールに迫るが、岡山は組織的に対応。GK中林洋次のセーブを見込んで打たせている場面もあった。
岡山はボランチの仙石廉が雨のピッチを考え、「斜めに走った選手を使えたらと思ったので、ラストパスは少し狙っていた」というゲームメイクで、ポゼッションは両チームを交互した。0-0で前半を折り返すと、「後半は自分たちからボールを取りに行くというファジアーノらしいゲームをやろうと、影さんに言われて」(MF田所諒)、ギアを上げてシュートを重ねていく。
後半16分には岡山が最初のカードとしてFW三村真を投入。躊躇のない三村の突破が爽快な空気を呼び込んだ後半26分。岡山の左サイドで田所、桑田を経由したボールが、再び田所に渡ると、高い位置で相手DFをかわしてクロス。これを荒田が左足で決めて岡山が先制。「あいつ(田所)、よく練習してるんで、あいつから、決められてよかったなと思います」と荒田。
1点ビハインドの徳島はMF宮崎光平、FW大崎淳矢を入れて1点を追った。しかし前節・水戸戦の前半に出来ていた2トップがボールを受け、アクセントとなってサイドから攻め込む形は機能しなかった。ビルドアップのボールをペナルティーエリア手前で後ろ向きに受けた後、追い越していく選手がいない。「ワイドからもう一回やり直して縦パスというイメージが強すぎて、段々中に絞られてしまった。常に遅攻という形になり、難しい中で攻撃をしなくちゃならなかった」と小林伸二監督。
ゲーム終盤は徳島の攻撃に晒されたが、繰り返し撥ね返す岡山の守備は小気味よいリズムさえ生んだ。そんな守備の粘りが終了間際の追加点に繋がったのかもしれない。決めたのは怪我で2ヵ月ほどゲームから離れて、前節・鳥取戦が初出場となったFW三村。「シュートまで持っていく形が自分の中にあるので、それを一度でも出せるように」と臨んだゲームで、田所のパスを受けて抜け出し、念願のJ初ゴールをアディショナルタイムに決めた。先週、「ゴールについてはあまり急かさないでください」と笑っていた三村、会心のゴールだった。
岡山はこの勝利で中四国ダービー「PRIDE OF 中四国」2勝1分の暫定首位。またホームでは昨年7月29日に千葉に0-1で敗れて以来負けなし。雨にも関わらずスタジアムで後押ししてくれるサポーター、ファンに対し、「Jリーグのチームは数多くありますが、カンスタほどのものはなかなかないと思っています」と影山雅永監督は賞賛の声を惜しまなかった。
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2013.05.20 Reported by 尾原千明