今季公式戦6連勝中で順風満帆な航海を続けていた横浜F・マリノスが、大宮アルディージャ・チョ ヨンチョルの一発に沈んだ。
今季初黒星。それを告げる笛が鳴ると同時に、兵藤慎剛はピッチに両ヒザを着いて座り込んだまま、しばらく動けなかった。起き上がってもスタンドに挨拶へ向かう選手の列の最後尾で、悔しさ、不満が入り混じる複雑な表情をつくり、何度も天を仰いだ。
横浜FMが試合に臨む上で、ポイントは2つあった。一つは先発メンバーを入れ替えたこと。この日は中澤佑二がメンバー外で、富澤清太郎と中村俊輔はベンチスタートだった。もう一つは、フォーメーションを変えたこと。今季初めて公式戦で4−4−2を試したのだ。
結論から言えば、その影響が悪い方へ出てしまった。メンバーに関してはセンターラインの中軸を欠き、特に守備の軽さ、淡白さが目に付いた。28分の失点シーンにしてもDFのクリアが中途半端になったとはいえ、こぼれ球をあっさり繋がれ、シューターのチョ ヨンチョルを詰め切れずに失点。「アンラッキーな面もあったけど、あそこでディフェンスの選手が集中力を発揮できなかった。ディフェンス全体の問題だと思う」(小林祐三)。
システムについては普段の4−2−3−1と違い、トップ下の位置に選手がいないため、どうしてもそのスペースが空いてしまい、相手ボランチへプレッシャーをかけ切れず、いつもの「いい守備からのいい攻撃」という持ち味が発揮できず。攻めも選手の配置の違いから「ボールの回し方がスムーズじゃなかった」(兵藤)。端的に言えば、今後に必要な『底上げ』という部分で課題が見えたゲームだったのではないか。
一方の大宮。1点リードしてから全員でハードワークをこなす粘り強い守備を完遂。相手のマルキーニョスは「やりにくい相手でしたね」と、苦戦したことを認めた。ただ、そういった展開は、過去の両チームの対戦でも見られた『よくある景色』だったように思う。
だが、この日は違った。大宮は今までの対戦とは『異なる景色』も見せてくれた。昨年末から結果が出ているせいか、攻撃に出た際、選手に迷いがない。特に前半は、開始2分の裏に抜け出した富山貴光のループシュートをはじめ、決定機を5回ほどつくる。結局、GK榎本哲也の好セーブや相手DFの懸命なシュートブロックにより1点止まりに終わったが『やり切るんだ!』という強い意志が伝わるカウンターで、何度もスタンドを沸かせた。
富山、長谷川悠が組む日本人2トップは、ゴールを生む遠因になったのではないか。高さと力強さで脅威を与え、相手最終ラインが若干ラインを引いて対応したことで、チョ ヨンチョルがフリーでシュートを打てたからだ。彼ら2人とノヴァコヴィッチ、ズラタンのスロベニアン2トップとのポジション争いは、いい意味で火花を散らしそうだ。
なお、横浜FMでは、後半31分に特別指定選手のMF長澤和輝(専修大)がトップ下に入り、初めてJの舞台に立った。しかし見せ場は作れずじまい。緊張もあったためか味方へのパスがズレたり、当たり負けしてボールロストするなどプロの洗礼を受けた。確かにビハインドのある難しい状況ではあったが、ほろ苦いデビューだった。
以上
2013.04.04 Reported by 小林智明(インサイド)