福岡にとっては、悔やむに悔やみきれない失点だった。「放り込まれるのは分かっていた」（水谷雄一）。しかし、その対応策が不十分だった。時間は90＋1分。水戸が左サイドから放り込んだクロスに対して競りにいけなかった福岡は、三島康平に易々と頭で落とされる。しかも、最終ラインの人数が足りない。そして、水戸は外に余った橋本晃司が折り返し、最後は中央でフリーで待っていた山村佑樹が頭で合わせた。第４節・京都戦で喫したアディショナルタイムの決勝ゴールのリプレイを見るかのような失点。勝点２を落としたと言える試合を、マリヤン プシュニク監督は「とても悲しい。我々はいいプレーをしたが、京都戦のように最後の最後で失点を喫し、勝点を失ってしまった」と振り返った。

サッカーには様々な視点がある。それぞれの立場によって、その試合が意味するものも、その内容を、どのように捉えるのかも変わってくる。だが、この試合が福岡のものであったことを否定する人は少ないだろう。立ち上がりから自陣に低く構えて守りに徹する水戸に対してボールを支配。丁寧にボールをつなぎながら、両サイドを中心に攻撃の形を作った。ボールを奪われても、高い位置からの連動したプレスで素早く奪い返した。低く構える相手を崩すのは難しく、ラストの精度に欠いた部分もあったが、トレーニングで取り組んできたことを徹底して繰り返す姿には、ゴールを取れずに慌てる気配は感じられない。

もちろん、福岡に得点が生まれなかったのは、水戸が守りに徹していたことも理由として上げられる。石神幸征、西岡謙太のダブルボランチを中心に徹底して真ん中を固める守備は、両サイドを何度も崩されても、最後のところで福岡の攻撃をはね返し続けた。奪ったボールを簡単に相手に渡してしまう場面が散見されたが、「中央が固くなって真ん中を割られる場面がほとんどない、たとえそこへ入れらたとしても奪える、センターバックが右往左往する場面が少なかった。とてもバランスが良かったと思う」（柱谷哲二監督・水戸）という言葉からは、まずは守りきることに重点を置いていたことが窺える。

後半に入ると、前への意識を高めた水戸が、福岡のゴール前へ侵入する場面が見られるようになったが、それでも、試合は前半と同じような流れで進んでいく。そして福岡に待望のゴールが生まれたのは74分。西田剛のワンタッチプレーから生まれたチャンスに、船山祐二が絶妙のクロスをゴール前へ。そして、城後寿の右足がゴールを捉えた。相手のクリアボールを奪ってからの素早い縦への攻撃。それは福岡の狙い通りの形だった。その後も高い位置から守備を仕掛ける福岡がゲームをコントロール。水戸は、福岡の左サイドへロングボールを集めて活路を見出そうとするが、90分が過ぎた段階では、福岡に大きな問題はないように思われた。

ところが、アディショナルタイムになると、微妙な流れに変化が見え始める。福岡の前への意識が薄まると、水戸のパワープレー気味の攻撃が流れを引き寄せ始める。そして生まれた冒頭の同点ゴール。福岡にしてみれば、２点目を狙うのか、守りを固めて逃げ切るのか、あるいは、高い位置でボールをキープして時間をコントロールするのか、いずれの方法にせよ、徹底できなかったことが悔やまれる。だが、視点を変えれば、福岡の左サイドに長いボールを入れてミスマッチを作り出そうとしていたのは水戸の攻撃の狙い。それをやり続けたことが、最後の最後でゴールが生まれた。水戸にしてみれば、狙い通りのゴールであったことも間違いない。

連敗を３で止めたものの、勝点２を落とした福岡。水谷は話す。「下を向いていても仕方がない。シーズンは長いので、３連敗の後の引き分けで、一歩前進したと捉えてやっていきたい。変われるも、変わらないのも自分たち次第。次に向けて、しっかりと準備したい」。変化の真っ只中にいる福岡にとって必要なのは、終わった試合を悔むことではなく、試合で得た教訓を活かして前へ向かって進むこと。その繰り返しの末に大きな変化が待っている。

それは水戸にとっても同じこと。勝ち星からは４試合離れることにはなったが、粘りに粘って勝点１を拾った意味は大きい。そして、これを反攻の第一歩とするべく、次節に迎えるホームの松本戦で勝利を目指す。

以上

2013.04.01 Reported by 中倉一志