ゲーム全体を見れば、より長い時間ボールを支配したのも、チャンスの数で上回ったのもホーム・磐田だった。対するアウェイ・鳥栖は敵地で数多くのチャンスを作ることができたわけではないが、勝負どころで確実にゴールを決めるエースストライカーの存在が大きかった。
鳥栖の先制点は試合開始直後の9分。敵陣左サイドでボールを持った水沼宏太のクロスをファーサイドに流れた豊田陽平が頭で押し込み、スコアを動かす。ドリブルを仕掛けた水沼が前を向いた瞬間に見せた動き出しは絶妙。マッチアップした磐田・藤田義明の視野から上手く消え、ファーサイドでフリーに。あとはヘディングで冷静に流し込むだけだった。さらに34分には藤田直之のCKを頭で豪快に合わせ、追加点。CKの際にゾーンディフェンスを敷く磐田のわずかな”ギャップ”、それもチョ ビョングクと金園英学という空中戦に強い2人に挟まれながらも、強引にねじ込んで見せた。51分には再び藤田のCKを頭で押し込み、ハットトリックを達成。試合後は「勝てれば一番よかった」と悔しさを見せつつも、「みんなの力で3点取れた。チームメイトに感謝したい」と喜びを語った。
対する磐田のエース・前田遼一は本来のパフォーマンスを出せなかった。2分に山田大記のFKに頭から飛び込み、さらに17分、27分にもクロスに合わせようとしたが、いずれもボールにタッチすることはできず。ドリブルのミスやパスミスも目立ち、“らしい”ポストプレーも影を潜めた。振り返れば鳥栖の2点目となった34分のCKも、前田が相手ゴール前でボールを失ったところからカウンター攻撃を浴び、相手にCKを与えてしまった。相手の厳しいプレッシャーを上回るパワーを最後まで出せず、58分に途中交代。代表戦の疲れがあったことはだれの目にも明らかであり、試合後のミックスゾーンでは「全てのプレーがよくなかった…」と自分を責め、言葉少なに会場を後にした。サックスブルーのエースは今季いまだノーゴールだ。
だが、磐田にはエースの不調をチーム全員の力でカバーする力があった。前半終了間際にCKから山田大記が豪快ミドルを叩き込んで1-2で前半を折り返すと、後半に猛攻を仕掛ける。先述した通り、後半の立ち上がりに豊田のゴールでリードを広げられたが、後半開始からピッチに立った駒野友一、58分に前田に代わって投入された小林裕紀らが絡む攻撃で一気に加速。62分に小林裕のクロスのこぼれ球を松浦拓弥が押し込み、71分には駒野のクロスを金園が決め、土壇場で同点。勝ちきることはできなかったが、勝点1を得た。リーグ戦4未勝利ではあるものの、3失点を喫した中で負けなかったことは救いだろう。
対する鳥栖は常にリードする展開となっただけに、尹晶煥監督は「ものにしたい試合だった」と悔やむ。リーグ2連勝は叶わなかったが、豊田が開幕4戦で6得点とゴールを量産していることは大きい。「一度呼んでもらっていい刺激をもらいたいし、僕自身もいい刺激を与えられるような選手になりたい」と日本代表をも見据えるエースが、今季も鳥栖を牽引している。
以上
2013.03.31 Reported by 南間健治