やり慣れたシステムではなく、なぜここまで新システムにこだわるのか。今まではその大きな理由を明言してこなかった指揮官だったが、ようやく試合後の言葉によってその意図が見え始めてきた。
「現在、我々はACLの初戦を見据えているが、アジアのチームは身体能力も高く、身長も高いので、空中戦も想定すると我々も1枚でも高い選手を起用したいと思っている」(ネルシーニョ監督)。
やはりそこには“アジア制覇”という大きな目的があった。したがって今回のFUJI XEROX SUPER CUP(FXSC)は、もちろん勝ちに行くのは大前提にあったとしても、同時に3バックを機能させるという意味合いも存分に含んだ試合だったということになる。
では実際に機能したのか。
4バックシステムならば、昨シーズンの広島ビッグアーチの対戦で完全に広島を術中にはめたように、ボールを奪うポイントを見出せたかもしれないが、いまだ慣れない3バックでは誰がどこのポイントでプレスを仕掛け、どう奪い取るのかがはっきりせず、広島の食い付かせてはフリーの選手にはたく巧みなパス回しと連携に翻弄される形となった。ただし、最後に縦パスが入る部分で、近藤直也、増嶋竜也、鈴木大輔が1トップの佐藤寿人と2シャドーの高萩洋次郎、森崎浩司へのタイトな守備で崩されることはなかった。29分の失点も、佐藤のゴールがあまりにも素晴らしすぎた。とはいえ、3バックの大外のスペースを佐藤に突かれたという点では、守備面でも改善の余地はある。
だが守備面より、問題は攻撃面だ。ちばぎんカップでもそうだったように、ビルドアップの得意な3枚のセンターバックを置いているわりには、その特性が全く生かされておらず、時間をかけて後ろで回すも、柏の選手個々のポジショニングに動きがなく、変化がないから広島の選手にとってはマークを掴みやすい。そして変化がないところに無理に縦へパスを入れ、結局はそこで奪われるケースが目立っていた。これは3バックというよりも、攻撃を構築していく周囲との関係と、パスを引き出す受け手側の問題だろう。それについて、大谷秀和は「攻撃に移った時に手詰まりになっていた」と話している。
後半に入ると、わずかだがその“手詰まり感”は解消されつつあった。ビルドアップ時に大谷か、もしくは途中からボランチに入った栗澤僚一が最終ラインまで降り、近藤と2センターとなることで、鈴木と増嶋がサイドに開き、攻撃の局面では4バックのような陣形となる。そうなると両ウイングバックのキム チャンスとジョルジ ワグネルのポジショニングは必然的に高い位置取りとなり、それぞれのサイドにレアンドロ ドミンゲス、工藤壮人、タイプこそ異なれボールを収められる選手がいることによって、サイドからの攻撃が活性化された。プレビューでも述べたが、キム チャンスとレアンドロ ドミンゲスの連携には可能性を感じさせる。実際に後半は、右サイドから攻め入るシーンが増した。
あとは、このシステムの鍵を握るのはクレオだ。「クレオのところでタメを作り、高いボールにも対応できるというところで、我々の新しいシステムで形を作る。今日のところは現段階のコンディションと今日の対戦相手を考えるとこの形でやる必要があった」(ネルシーニョ監督)。クレオのコンディションが上がり、チーム戦術にフィットしなければ、この新システムは完成形には至らない。が、「自分のポジションを外してでもボールを受けに降りて流動性は出していかないと、あのシステムではパスが回らない」と感じていた田中順也が途中から入ると、田中が降りて味方から引き出す動きで全体の動きに変化が表れ、タメを作りながら周囲の選手を生かせるようになり、田中、レアンドロ、工藤を経由してサイドから逆サイド展開するといった幅を使った攻撃も見られるようになった。広島も後半はしっかりとバランス取りながら統率のとれた守備とカウンター狙いに出たため、そのブロックを崩し切るには至らなかったが、最低限“攻めの形”だけでも見出せたことは収穫と考えていいだろう。
試合の翌日、柏はAFCチャンピオンズリーグ初戦の貴州人和戦のため中国・貴州省貴陽市へ飛ぶ。残念ながらFXSC連覇はならなかったが、この試合で得た課題と収穫を貴州人和戦に生かし、勝利へつなげてほしい。
以上
2013.02.24 Reported by 鈴木潤