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【J2:第24節 熊本 vs 京都】レポート:後半に流れを引き寄せた京都が、8試合ぶりの無失点勝利。熊本の連勝は3で止まった。(12.07.16)

「今日は我々にとってスペシャルなゲームだったので、勝てなかったのがすごく残念です」
会見で試合を振り返るコメントの最後にそう述べて、高木琢也監督は唇を噛んだ。このゲームにおいて勝利は手段だった。言うまでもなく、先週の豪雨による災害で沈む熊本県民、そして県全体に少しでも元気、活力を与えるためだ。キックオフ前にはスタジアム全体で今回の水害で亡くなった方に黙祷を捧げ、京都のサポーターからも早期復興を願う横断幕が掲出されている。実際、前半は狙い通りに京都の攻撃を封じ、また攻撃でもチャンスを作れていた。だからこそ余計に、0−1というスコア以上の無念さがつのる。

均衡が破れたのは終盤の81分である。ハーフウェイライン付近でボールを奪った京都は、ドリブルで前へ運んだ宮吉拓実が右の中村充孝へいったん預け、さらに中村はサポートに入った工藤浩平へ。「前半はシュート自体が少なかったし、打たないと得点は生まれない」と、工藤が狙い澄まして右足で放ったミドルシュートはポストに阻まれたが、跳ね返りに反応して詰めた中山博貴が押し込んだ。
「危ない場面はホントに少なかった」と矢野大輔が話している通り、京都の決定機と呼べるのは、この得点場面のほかには、64分の右コーナーキックからのおそらくバヤリッツァのヘディングシュート(これは南雄太がファインセーブ)と、ポスト右にそれた71分の宮吉のシュートの合わせて3回ほど。だが後半に入って、完全に京都ペースと言えるまでに熊本は押し込まれたのも事実。前半の流れから一変したのは、駒井善成に代わって64分にチョン・ウヨンが入り、京都の攻撃に変化が生まれたからだ。工藤、中村らがよりゴールに近い位置でプレーする場面が増え、縦へのスピードが一段上がってボールの供給どころは高くなり、さらに熊本のセンターバック間を広げるような人の動きとボールの動かし方が見られるようになっている。

これに対して熊本は、運動量が若干落ちたこともあり、「後ろは押し上げられず、前は戻りきれなくて、中盤のスペースが空いてしまった」(筑城和人)。高木監督も武富孝介から藏川洋平(この交代で市村篤司をシャドウへ)、疲れの見えた西森正明に代えて藤本主税、終盤には市村に代えて仲間隼斗を入れるなど立て続けにカードを切ったが、交代策は実らなかった。ただ、押し込まれたとは言え後半もノーチャンスだったわけではなく、53分には片山奨典、61分には西森、また終了間際のアディショナルタイムにも片山と、ドリブルを起点にサイドから決定的なチャンスは作っている。得点に結ぶことはできなかったが、齊藤和樹の累積警告で次節は北嶋秀朗の出場が濃厚となることを踏まえると、最近は少なくなっている左右のクロスから得点をうかがう場面が今後は増えそうだ。

さて、前後するが前半の熊本の戦いについても触れておきたい。このゲームでの熊本の狙いは、京都のパスワークを分断することにあった。高木監督は試合後の会見に戦術ボードを持ち込んでその意図、方策を説明している。具体的には、「ワイドのプレーヤーを3枚のDFの横に下げるのではなく、内側へ入れることで中盤を厚くする」という点。奪ってからは、高い位置を取っているサイドバックの裏のスペースを衝くことを最優先にし、1発でそこを使えなければ一度クサビを当てる、または横に動かす等して食いつかせた上でスペースを広げ、再び外から3人目が飛び出す形を取った。立ち上がり2分に西森が引き出した場面や、25分の左から右への展開でも、そうした狙いが形となっている。ボール保持率では明らかに京都が上回っていたと思われるが、「前半はいつ取られてもおかしくない状態だった」という大木武監督の言葉が、熊本が精神的にも圧をかけていたことを物語っている。
それでも、「ここのところ失点も続いていたので、ゼロに抑えられたのは良かった」と工藤が言うように、秋本倫孝を1列前のボランチに上げ、守備の改善を図って勝利と同じく8試合ぶりの無失点を達成した京都には、やはり底力を感じさせられた。ポゼッションしながらショートパスをつないで崩していくというベースのスタイルは維持しながら、縦のスピードアップや左右に広げる動かし方など、勝利のために若干のアレンジを加えて決勝点に結んだことは、今後厳しさを増す昇格争いの中で生かされるだろう。

一方の熊本にとっては、連勝が止まったことより、やはり結果を出せなかったことが悔やまれる一戦である。立ち上がりのコーナーキックからの場面を含めた数度のチャンスを決められなかったことに加え、良い形でボールを奪いながら、攻撃に転じた際のミスで逸したチャンスも少なくなかった。後半における中盤のケア、失点場面のボールの奪われ方やドリブルへの対応など、課題とすべき部分はある。しかしあれだけの豪雨の直後にあって、(もちろん回復した天候やクラブとしての集客活動の成果とは言え)今季最多7620人の観客が集まったのは、何らかのエネルギーを発信することを期待されていたからであろうし、自然災害の傷を負った被災者とホームタウンに対し、少なくともその思いに応えて最後まで諦めない姿勢を見せることはできた。戦い続けることで、伝え、感じてもらえることは、まだまだあるはずだ。

以上

2012.07.16 Reported by 井芹貴志
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