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【J1:第3節 広島 vs 鹿島】レポート:20歳のヒーロー、爆発。鹿島のリーグ戦初勝利への想いを、紫の若者が打ち砕く。(12.03.25)

2年前のACL・浦項戦で見事な得点をあげた若きストライカー。だが昨年は、天皇杯で21分間出場したのみ。練習試合で8試合連続21得点をゲットしても公式戦で起用されない状況に、大崎淳矢は移籍も決意した。だがその想いは、森保一新監督からの「一緒に頑張ろう」という1本の電話によって変わった。
「自分のような若い選手に、わざわざ電話をかけてくれるなんて」。
感激が翻意を促し「人生を賭けるんだ」という強烈な想いを胸の内に生んだ。自分を励まし、評価してくれる森保監督に報いたい。そんな一心でキャンプから必死の形相で走り、闘った。

その気持ちが最初にスパークしたのは、24分。柴崎岳のスルーパスがジュニーニョにつながり、鹿島が初めての決定機を創った直後の場面だ。
広島のCK。高萩洋次郎のキックはDFがクリア。そのボールの落下点に入ったのが大崎と増田誓志だ。身長差は9センチ。だが小さなストライカーは、浮きあがったボールに噛み付かんばかりの気迫を見せて高く飛び上がり、9センチの差を埋めて競り勝った。
「自分が触ることで、誰かにチャンスが生まれることを信じていた」
その想いの源泉は、彼の師・森山佳郎広島ユース監督の「気持ちが強い方にボールは転がる」という名言。広島ユースの先輩・森崎和幸も「気持ちが強ければ反応が速くなり、こぼれ球をマイボールにできる」と語る。広島に脈々と流れる伝統を、大崎は実践した。そのボールを拾ったのが森脇良太という広島ユースOBだったことも、偶然ではない。
「前節の清水戦、高木選手のシュートが自分の足に当たって入った。シュートを打てば何かが起きるんだ」。
その想いを爆発させた熱血漢のシュートは、佐藤寿人の足下に転がる。慌てて守備陣がラインを押しあげたが、間に合わない。J1通算97点目をゲットした広島のエースに、大崎は誰よりも早く抱きついた。

後半、ジョルジーニョ監督は柴崎をアンカー、遠藤康をトップ下に置くダイヤモンド型の中盤にして勝負に出る。だが、鹿島の反撃への想いは思いがけない事態で寸断される。55分、青山敏弘が絶妙のタイミングでスルーパス。鋭く動き出して裏をとったのは大崎。カバーリングのポジションにいた新井場徹、足を伸ばして見事なタックル。だがそれが「得点機会阻止」と判断され、井上知大主審は赤いカードを差し上げた。追いかける鹿島、数的不利。

ジョルジーニョ監督、再び動く。小笠原満男とジュニーニョをベンチに下げ、青木剛と興梠慎三を投入。だが、その苦心は結果につながらなかった。

71分、青山がキープ。疲れが顕著なのか、鹿島らしいプレスが見えない。「持ち出そうか」と考えた青山の視界に、スッと紫の影が見えた。アレックスと山村和也の間に、まるで忍者のように入ってきた大崎を「広島のエンジン」は見逃さない。
スルーパス。半身の姿勢からのファースト・タッチ。完璧な持ち出し。「ヒーローになれる」と西川周作が書いてくれた右足のスパイクに想いを乗せたシュートは、曽ヶ端準の右手をはね、ネットの中に収まった。2010年11月27日の対仙台戦以来、483日ぶりのゴールを決めた大崎淳矢が鹿島に止めを刺したのである。

クラブ史上初の開幕3連敗を喫した鹿島。3試合連続無得点、3試合連続セットプレーからの失点。この結果だけを捉え、「鹿島らしさがない」と評価するのは簡単だろう。だが、不運な判定もあり1人少なくなっても決して試合を投げ出さず、最後まで得点を追い求めた姿は、鹿島の矜持。脅威的な切れ味で圧力を与えた大迫勇也のスルーパスに興梠が飛び出した終了間際の決定機は、鹿島の執念だ。

中田浩二のケガは心配だが、山村がその穴を埋められることも証明された。負けが込んでいるチームにありがちな「バラバラ感」は見えないだけに、「得点」「勝利」というきっかけがあれば持てるポテンシャルを爆発できる。その「きっかけ」を手に入れられるための試行錯誤は必要だが。

それにこの試合は、鹿島の出来うんぬん以上に、広島の守備が素晴らしく機能した。チーム全体の守備意識が高く、集中も切らさず、何よりもよく走れていた。それが攻撃面でも好作用を生み、佐藤・大崎の得点だけでなく、多くのビッグチャンスを生んだと言える。

才能に満ちた若きヒーローは試合後、サポーターの前で「広島の若手は成長していないと言われていたけれど、そんなことはない。僕らが、これからの広島を引っ張っていきます」と高らかに叫んだ。層の薄さを懸念された広島だが、大崎淳矢の叫びが実現すれば、リーグに更なる旋風を巻き起こす可能性もある。そんな雰囲気に満ちた広島ビッグアーチには、春の予感を感じさせる陽光に満ちていた。

以上

2012.03.25 Reported by 中野和也
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