横浜FCの岸野靖之監督解任から、わずか中1日で迎えたゲーム。横浜FCにとって非常に難しい状況でのゲームであると同時に、東京Vの川勝良一監督にとっても「(横浜FCは)監督が代わった直後の試合なので、一番難しい試合。力のある選手もいるし、監督の交代をモチベーションに変えて一時的にまとまる」という点で戦いにくい状況で迎えたゲーム。モチベーションという観点で特別であり、さらに戦術練習が1日にしかできないという状況が、かえって横浜FCの新しい成長の触媒となるような試合となった。
この1日の戦術練習の前に、横浜FCの田口貴寛ヘッドコーチは、「今まで前からの守備をやってきていたけどそれはできないから、一息つくために、ビルドアップを度外視してみんなで守るところをやりたい。前から取りに行くのではなく、リトリートに近くしながら、相手が下がったらラインを上げるような組織的な守備をトレーニングでやって、ヴェルディ戦でどういう結果が出るかを見たい」と語っていた。まさに、この狙い通り、横浜FCは、サイドバックの上がりを極力抑え、3ラインで構成される守備ブロックを確立する。もちろん、1日での急造の部分もあり、「その勢いに乗らないように」(川勝監督)と先に主導権を取ることに臨んだ東京Vが最初の10分はゲームを支配。3分のジョジマール、8分の西紀寛、9分に再びジョジマールと、東京Vらしいパスワークで横浜FCを押し込んでペナルティエリア付近からのシュートを繰り出す。しかし、15分ぐらいから3ラインが機能すると、徐々に横浜FC守備のリズムができ始める。そしてボールを奪っても、あえて後ろで回して東京Vのフォアチェックを引き出し、スペースを作っていく。シュートまでは至らなかったが、徐々に攻撃の糸口を作り出すことに成功する。その証拠に、東京Vは、23分、27分、28分にもシュートを放つが、いずれもミドルからロングシュート。ペナルティエリア付近まで進入できてのシュートはなくなった。横浜FCのシュートも目立ったのは45分の杉山新のシュートだけだったが、当初目標としていた組織的守備について手応えを得た前半だった。
ハーフタイムに「速くボールを動かして相手の陣形を崩そう。無理に縦に入れずに、ボランチを使って広く動かそう」と川勝監督が指示をした後半は、テンポを1段も2段も上げた東京Vが、急造の組織を前後左右に広げはじめる。58分の西のポストをたたくミドルシュートなどは、その狙いがハマったシーン。横浜FCとしては耐える時間帯となるが、一方で縦に速くなりスペースが出来はじめるとみるや、横浜FCもカイオのキープを中心に攻撃面でもリズムを作り始める。61分のカイオのロングシュート、76分の大久保哲哉が1対1で抜けてシュートを放つシーン、78分の内田智也の飛び込みなど、決定機を何度も作った。東京Vも、82分にジョジマールがフリーで抜けだし決定機を迎えるが決められず。後半は、東京Vのテンポアップに従って両チーム共に決定機を作るが、ゴールには至らず。結果としてはスコアレスドローで試合は終了した。
横浜FCにとっては、シーズンを通して価値のある勝点1と言って良い試合だった。1日の戦術練習という限られた状況で、シンプルな守備組織の構築に注力し、選手のタスクをシンプルにしたことが功を奏した。前半だけを見ると、これまでの戦い方を放棄した消極的な戦いに見えるかもしれないが、ゼロからサッカーを構築したわけではなく、岸野前監督の構築した攻守のやり方をシンプルにして、今できることのタスクを明確にできたことで、選手の良さが引き出される結果となった。そして、前半に守備で自信を得て、後半に攻撃の糸口を見つけ決定機に繋げるたくましさは、解任劇からの再生を予感させるのに十分な内容だと言って良い。カイオ、大久保からは「次はゴールできると思う」という力強い言葉も聞かれた。チームに一番不足していた、自信、拠り所を獲得することに成功したという点で、勝点3はないものの当初の目標は達成した。連戦の3試合目となる次節甲府戦に向けて、積み上げが期待できるだろう。
一方の東京Vとしては、横浜FCの明確な3ラインの中で、うまくスペースを見つけられず、ジョジマール、阿部拓馬、西のコンビネーションなど、攻撃面での切れ味を封じられてしまった。川勝監督が「もう少しドリブルの勝負とかスペースに関してパスじゃない方法を少し増やしても良かった」というように、守備を固められた時の戦い方で1つ宿題を課された形となった。横浜FCが守備を固める戦い方をしたところに少し戸惑いもあったように見えたが、攻撃の組み立ての力はこの試合も見せただけに、後半開始からの戦い方の修正を前半から行うしたたかさが今後必要になってくるだろう。
序盤戦の第4節ということで、どのチームもチーム作りの途中である。その中で横浜FCが得た礎は貴重だ。東京Vもそのポテンシャルは見せた。その意味で、この時期の試合としては意図、そして内容が十分ある試合だった。
以上
2012.03.21 Reported by 松尾真一郎