強引に例えるとすれば、熟成ワインか。ベガルタ仙台がほんのり渋く、味わい深い成熟度の高いサッカーで、今季２連勝を飾った。

「自分たちのやりたいサッカーができなくても０−０で推移していけばいい」（手倉森誠監督）。仙台は前半、強豪・横浜Ｆ・マリノスとのアウェイ戦を意識した、割り切った戦い方で臨む。ただし、“ベタ引き”で守っていたわけではない。守備ラインはある程度高く、コンパクト。ＦＷ、ＭＦ、ＤＦの３ラインがきれいに描かれ、バランスの取れた守備で、前半１度も相手に決定機を与えなかった。

そして43分、勝敗を左右する意味で「一番デカかった」（横浜FM・栗原勇蔵）仙台の先制シーンが訪れる。CKをニアに飛び込んだ田村直也が頭で合わせ、一度は相手GKにセーブされるも、混戦から最後は赤嶺真吾がヘッドでプッシュ。横浜FMにとっては、ＧＫ飯倉大樹が驚異的な反応で一度、防いだだけに悔やまれる失点だった。
前半ラストの「いい時間帯」での得点で、後半は「元々強い仙台の守備がさらに強くなる」（栗原）と予想された。

ところが、仙台にアクシデントが発生。センターバック鎌田次郎が足に違和感が出て、後半の頭から渡辺広大が代役を務める。さらに72分、上本大海が相手FWと交錯し、足がしびれて交代。松下年宏をボランチに投入し、角田誠を最終ラインに下げる。そんな応急処置を施したにも関わらず、仙台イレブンに動揺の色は見られなかった。「途中でメンバーが交代したが、全然問題なかった。共通意識を持っているから、誰が出ても勝てる」（太田吉彰）。

仙台は、時間の経過とともに、徐々にラインの位置を下げ、自慢の守備ブロックを形成。横浜FM・樋口靖洋監督に「正直、なかなか崩し切れませんでした」と言わしめた。最後は90＋８分にカウンターから途中出場の武藤雄樹がPKを獲得。それを太田が沈めて、決着をつけたのだ。状況、時間帯、メンバーによって、自在にシフトする守備形態を身に付けつつある仙台。この成熟した守備力は本物だ。

横浜FMは前節に比べると、“入り”としては悪くなかった。落ち着いてボールを回して、コンパクトな陣形をキープ。ただ、足下へのパスは繋がるものの、「そこからリズムを変える縦パスが必要だと思う」(小椋祥平)。
74分に大黒将志のクロスバー直撃のミドル、81分に齋藤学の左クロスを狩野健太がゴール前で合わせる、２つの決定機を外したのは、確かに痛い。だがそれ以上に、攻撃が齋藤らの個人技頼りで、“カタチ”が見られないのが気がかりである。
しかしながら、戦いはまだ始まったばかり。新しいコンセプトに取り組み、産みの苦しみを味わっている段階だ。我慢の時を乗り越えれば、きっと“春”が来る。

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2012.03.18 Reported by 小林智明（インサイド）