試合前、柱谷哲二監督が選手たちに伝えたことは「内容はどうでもいいから絶対に勝て」ということであった。東日本大震災からちょうど1年となる3月11日に行われた今節。被災地のクラブとして戦う水戸にとって「特別な試合」(柱谷監督)であり、勝利を義務付けられた試合となった。そして、選手たちはプレッシャーをはねのけ、使命を果たしてみせた。勝たないといけない試合でしっかりと勝つ。震災の被害にもひるむことなく前に突き進んできた水戸が自らの殻を破る勝利を挙げた。昨季までの水戸はいい試合をしながらも勝負所で弱さを見せて勝ち星を落とすことが多かった。「勝負弱さ」が常につきまとってきていた。だが、今季の水戸は違う。開幕戦に引き続き、この試合でも勝負強さを発揮し、勝利を手繰り寄せた。敵将から「(水戸は)勝負所が分かっている分、強いチームになっていると感じます」と高い評価を下されるほど、水戸には“強者”の雰囲気が備わっていたのだ。
試合は拮抗した展開ではじまった。3−6−1システムを採用する富山に対し、水戸が狙ったのは3バックの横のスペース。サイドを効果的に突きながら攻撃に出たかった。だが、「最初からサイドを使うのでは、相手に寄せられてしまう。サイドを使うためにも中央で起点を作らないといけない」と小澤司が戦前に語っていたように、サイドを制すためにも中央を制す必要があった。相手の厳しいプレッシャーを怖がることなく、中央でボールを動かせるかが勝負の分かれ目となった。
序盤こそ富山のタイトなプレスに苦しむが、徐々に水戸が打開してチャンスを作り出すようになる。突破口を切り開いたのは鈴木隆行であった。富山の3バックとボランチからの激しいマークをものともせず、前線で起点となるだけでなく、自ら突破を見せ、再三富山ゴールに迫った。それにより、富山のDFラインを押し下げ、中盤を間延びさせた。中央でボールを回せるようになった水戸が主導権を握った。
そして26分、右サイドから中央に展開し、ボールを受けた西岡謙太が島田祐輝に鋭い縦パスを入れる。島田が素早い反転から放ったシュートはDFにブロックされ、ボールは左サイドに流れるものの、水戸の分厚い攻撃は続いた。左サイド輪湖直樹が上げたクロスをファーサイドに走り込んだ鈴木隆がヘディングシュート。GKが反応するも痛恨のファンブル。その隙を小澤が見逃さず、きっちり押し込んで水戸が先制する。右、中央、左。水戸の多彩な攻撃が実ったゴールであった。
前半は水戸ペースで進んだが、後半に入ると流れは変わる。55分、富山が苔口卓也を投入。システムを2トップに変え、シンプルに前線にボールを送り込み、黒部光昭の高さと苔口のスピードを生かしながら水戸DFに圧力をかける展開に持ち込んだ。
だが、水戸のDF陣に慌てる様子はなかった。塩谷司を中心にDFラインを巧みにコントロールしながら富山の攻撃を食い止めた。前節Jリーグデビュー戦ということで不安定な出来だったキム・ヨンギもこの日は安定感抜群。塩谷と息の合った連係を見せて、富山の攻撃を跳ね返し続けた。終盤、富山はパワープレーで水戸ゴールを狙ってきたが、水戸は「逃げ切り要員」加藤広樹を投入し、5バックに変更。前節同様集中力高く対応し続けて逃げ切りに成功。開幕2連勝を飾った。
1対0。前節に続き、最小得点差の勝利である。だが、リーグを勝ち抜くためにはこうした拮抗したゲームでいかに勝点を積み上げることができるかが重要になってくる。2試合とも紙一重の内容ながらも勝点3を手にすることができたことは水戸にとっての大きな成長と言えるだろう。自分たちの理想のサッカーを追い求めるだけでなく、90分間の流れに合わせて戦い方を選択しながらプレーできている。「判断がとてもよくなっている」(柱谷監督)ことが連勝の要因として挙げられる。それが安定感につながっているのだ。鈴木隆は語る。「後半途中から完全に勝つために戦った。それで勝てるようになっている。昨年にはなかった力をつけているなと感じる」。まだまだ低い段階であるが、着実に“強者”の階段を昇っていることは間違いない。おそらく今後もこうしたタフなゲームが続くことだろう。年間通して、開幕2試合で見せた強いメンタリティを持って戦うことが求められる。
「J1昇格」を真剣に掲げて挑んだシーズン。開幕2連勝を飾り、「行ける」手ごたえをつかんだのではないか?、塩谷にそう問うと、こう返答してきた。「『行ける』というよりも『行く』という強い意志を見せないといけない。『絶対にJ1に行くんだ』という気持ちを見せて戦いたい」。震災からちょうど1年が経った。確かに区切りではあるが、決して「過去形」の出来事ではない。むしろ、復興はこれから正念場を迎える。水戸もこの1勝で終わるのではなく、本気で「J1昇格」を目指しながら強いメンタリティで戦い続け、被災地・茨城に勇気を与える存在でなければならない。「震災前以上に(茨城が)元気になればいいと思っています」。そう願う鈴木隆を中心に、水戸はこれからも「勝つため」に戦い続ける。
敗れはしたものの、富山も力を発揮したゲームだったのではないだろうか。前半、鈴木隆の強さに苦しみ、後手に回ったが、風上に立った後半は縦に速い攻撃で水戸陣内に攻め入った。水戸の堅固な守備を崩すまでには至らなかったが、攻撃の連動性やボールの動かし方などチームとして目指すサッカーを見せることはできていた。まだミスは多いが、「今はトライしているところ」と安間貴義監督は言うように、これからさらに積み上げていくことでチームは強さを身につけていくに違いない。次節ホーム開幕戦で勝利して、一気に波に乗りたいところだ。
以上
2012.03.12 Reported by 佐藤拓也