毎年この時期に行われるJリーグ新人研修会。これは、今シーズン、Jクラブに加入する新卒選手を対象に行われるもので、Jリーグは 今年も2月1日から3日間の日程で開催している。今年は今季からJ2に入会した町田・松本を含め、対象となる新人選手の加入がない栃木・大宮・富山・徳島の4クラブを除いた36クラブから、102名の選手が集まった。選手たちは「プロ」として、改めてここから踏み出す1歩に引き締まった表情を見せ、Jリーグ大東和美チェアマンの挨拶で 新人研修の幕が開いた。
初日はJリーグの中西大介事務局長が、Jリーグのビジョンやビジネスについてなどを詳しく話し、選手たちは自身がこれから活躍する「Jリーグ」という舞台についての理解を深めた。
2日目は朝8時からのルールについての講義でスタート。ルールやフェアプレーについて、細かい部分まで解説される中、ルールテストも行い、totoや危機管理についての講義と続いた。
そして この日の午後、約4時間(3部構成)に渡って多くの時間を割いて行われたのが「PRコミュニケーション」。「PRコミュニケーション」とは、いわゆるマスコミ対応のことで、マスコミとの関係をどう構築していくかも、プロにとっては大切な大きな仕事のひとつである。
第1部では、スカパー!などでお馴染みのサッカー解説者・野々村芳和さんをゲスト講師に迎え、今後プロとして、どうマスコミと付き合っていくべきか、マスコミとはどういう存在であるか、などについての話があった。野々村さん自身の現役時代のエピソードや、現在解説者として取材する立場になって感じている「インタビューする側としては、映像ではわからなかったところを言葉にして伝えてくれると有難いし、視聴者にも伝わりやすい」「ゴルフの石川遼選手のマスコミ対応の素晴らしい点」など、わかりやすい具体例を交えて話が進んだ。選手たちは、野々村さんの言葉を全員が背筋を正してキリっとした雰囲気で聞いていた。
「ここに来ている皆は、今まで学校で一番上手い、地域で一番上手いと言われてきたかもしれない。でも プロになったら、サッカーが上手い、キックが上手い、ボールさばきが上手いだけでは 価値はない。そこに、それを見てくれている人がいて、応援してくれる人がいる、そして評価してくれる人がいることで、はじめてサッカー選手としての価値が生まれる。自分にサッカー選手としての“価値”を与えてくれているのは誰なのか?今、自分がサッカー選手として居られるのは誰のお陰なのかを、しっかり理解してほしい」。野々村さんからの力強く熱いメッセージは、選手たちの胸にしっかりと刻まれているようだった。
第2部のグループワーク(6グループに分かれる)では、インタビューの受け答えを想定した中で、「感じ良く」「印象良く」自分の印象や価値を上げるための細かい指導が、マナー講師の先生を招き行われた。
印象良く話すために顔の表情筋を鍛えて常に笑顔を心がけることや、ハッキリ明瞭に話すための発声練習や早口言葉など、今まで経験したことのないトレーニングに、選手たちは照れながらも、一生懸命に自分を表現しようとしており、そこには「フレッシュマン」らしい姿があちこちで見られた。
基本的な練習が終わると、自己紹介トレーニング。インタビューを想定して、自分をどう表現していくか、相手から自分はどのように見えているのかなど、インタビューする側・される側・アドバイザーの3つの役に分かれ、それぞれの良いところや改善点を出し合い、 何度もシミュレーションを行った。練習を重ねることで、話す時の自分自身のクセを見つけたり、客観的に他の選手の様子を見ることで気づくことがあったりと、しっかりと自分の言葉で、それぞれの個性を持ちながら自身を表現できるようになった。
グループワークの後の第3部では、それぞれのグループから代表者1名を決め、参加選手・チームスタッフ・Jリーグスタッフ・講師など総勢約200名が集まる前で、野々村さんがインタビュアーとなっての模擬インタビュー。
自己PRの部分では、神戸の奥井諒選手が自慢の刈上げた髪型を見てほしいとアピールすれば、札幌の奈良竜樹選手がものまねの一発芸を披露し失笑を買うも、笑いが起きるまで芸を披露し続けた。その中で、この日一番の注目を集めたのが川崎Fの田中淳一選手。狙ってか狙わずか、的を得ていないやり取りを展開する田中選手に、野々村さんが戸惑うシーンも。そんな野々村さんに「もっと質問してください」と畳み掛け、独特の「田中ワールド」に、会場は和やかな笑いに溢れた。
そして試合後をイメージした模擬ヒーローインタビューも行われ、プロ初出場・初ゴールを決めた、逆転ゴールを決めて勝利したなど、「ヒーロー」と呼ばれる場面から、自身の不甲斐無いミスで勝利を逃したという「負けて、インタビューには答えたくない心境」のシーンまで、様々な角度で、野々村さんから鋭い質問が飛んだ。どの選手も、それぞれの個性を上手く表現し、インタビュアーの奥にいる多数のサポーターを意識した受け答えで、グループワークでの成果を見せた。
「カメラや記者の先に、老若男女問わず、何百・何千・何万という人たちが見ている・聞いているということを忘れないでほしい」と、野々村芳和さんは言う。ファン、サポーター、スポンサー、クラブ、家族。多くの人のお陰で「プロサッカー選手」という道を歩かせてもらっていることを、選手たちも改めて意識したことだろう。
「Jリーガー」として大きな1歩を踏み出した選手たち。
3日間 ここで学んだ「プロ」としての意識と、感謝の気持ちを常に忘れることなく、サッカー選手として、そして一人の社会人としてさらに成長し、応援する人たちを魅了し続ける選手になってほしい。
以上
Reported by 浅野有香