10月10日(日)ヤマザキナビスコカップ 清水 vs 広島(15:00KICK OFF/アウスタ)
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数学的、あるいは心理学的に考えれば、広島が清水に与えたアウェイゴールは、たしかに痛い。広島が2-0で勝利していれば、清水の決勝進出には3-0というスコアが必要になる。もし広島が1点でもとれば、4点が必要。3-1ではアウェイゴールの差で広島の決勝進出が決まる。ところが76分、枝村匠馬の得点が決まったことで、状況は一変した。清水は第2戦を1-0でも勝ち抜け。アウェイゴールを許しても、2-1であれば延長戦に持ち込める。「枝村の得点は希望の1点。これでホームでは、現実的に闘える」という長谷川健太監督の言葉も、当然だろう。
広島側は、心理的にも難しい状況に追い込まれている。もちろん引き分けでも勝ち抜けが決まるわけで、数学的な見地から言えば、本来なら広島有利。しかし、「2-1という状況は難しい」とペトロヴィッチ監督は苦い表情を崩さない。選手たちの心理状態が、このスコアの影響を受けかねないと言うのだ。
「ありがちなのは、この第2戦を守って引き分けを狙えばいい、と考えてしまうこと。そういう試合に限って、最後の最後に失点して負けてしまうのがサッカーだ。つまり、我々はこの試合、決勝に行くためには点を取りにいかねばならない。受け身になってはいけない」
どんな状況でも、美しい攻撃的サッカーを貫く。そんなペトロヴィッチ監督の哲学からすれば、当然の言葉。その想いは、選手たちも当然、理解している。
「明日は0-0からのスタートのつもり。目の前の試合を勝つだけです」(高萩洋次郎)
「引き分けを狙ってできる方法があれば、教えてほしい。ガチンコ勝負で勝ちにいく」(森脇良太)
「前の試合は、関係ない。僕らは点をとって勝つだけ」(中島浩司)
広島には「引き分けでOK」という選択肢はない。「自分たちのサッカーができれば勝てる」というペトロヴィッチ監督の言葉を信じ、選手たちはまっさらな気持ちで清水に挑戦する。1995年以来勝利していない「アウトソーシングスタジアム日本平」という高い壁にしても、ナビスコカップに限れば1992年の勝利+2006年の引き分けと負けはない。「僕のJ1初得点は日本平でした」と公式戦4試合連続得点中、絶好調の李忠成は語る。2001年以来続いた対浦和戦の連敗を止めるなど、ペトロヴィッチ監督と「彼の息子たち」は、ここまでたくさんのネガティブな記録をストップさせてきた。日本平でも今度こそは、という機運は高まっている。
メンバー構成は厳しい。しかし、日本代表に招集されたGK西川周作の代役には、中林洋次がいる。しなやかな肉体と独特な感覚を駆使し、驚異的な反応でシュートを止めるピューマのようなGKは、昨年の活躍と生真面目な練習ぶりでチームメイトの高い評価を獲得。「ウッズ(中林)は昨年からレギュラーだったんだよ」とストヤノフは語り、森脇も「ウッズが後ろにいれば、安心できる」と信頼感は揺るぎがない。
槙野智章が日本代表、横竹翔が出場停止、盛田剛平が負傷とレギュラークラスが3人も不在となったストッパー陣だが、身体の強さを誇る森脇良太とチームナンバー1の危機察知能力を持つ森崎和幸が構える。高さに欠ける布陣だけにヨンセンの存在は脅威だが、「まず、いい形でクロスを入れさせないこと」(中島浩司)「そして、最後のところでやらせないようにすればいい」(森崎和)。ペトロヴィッチ監督も「清水のやり方はわかっている」と自信を見せる。確かにベストではないが、ここまで広島はベストメンバーで闘ったことはない。こういう主力不在の闘いには、慣れているはずだ。
昨日、日本代表は素晴らしい闘いでアルゼンチンを下した。歴史的な勝利後、ザッケローニ日本代表監督は「Jリーグが素晴らしい選手たちを輩出している」という嬉しい言葉を、Jリーグ全てのサポーターに贈ってくれた。その言葉が嘘でもお世辞でもないことを、広島と清水がきっと証明してくれるはずだ。
アルゼンチンから素晴らしいゴールを奪った岡崎慎司が所属する清水は、彼以外にも高い能力を持ったタレントたちがそろい、規律を持って闘っているチームであることを見せてくれるだろう。広島もまた、川島永嗣の突然のアクシデントを落ち着いてカバーした西川周作に代表されるように、仲間を全員で助け合い、それをコンビネーションという形に昇華させた美しいサッカーを、表現してくれるだろう。そしてこの2チームは、互いにリスぺクトしながらも激しく闘い、タイトルに向けての熱い気持ちを互いにぶつけあってくれるはずだ。
勝負は時の運。だが最後には、クラブ史上初の決勝進出に燃える広島の想いと若さ故の爆発力が、清水の執念と経験を上回ってくれると信じてやまない。
以上
2010.10.09 Reported by 中野和也