10月11日(日) 第89回天皇杯2回戦
山形 2 - 0 日文理 (13:00/NDスタ/2,181人)
得点者:29' 赤星 貴文(山形)、33' 廣瀬 智靖(山形)
☆天皇杯特集
----------
「いい勉強になったと思っています」(山形・小林伸二監督)
「いい勉強をさせていただいた」(日本文理大・岡中勇人監督)
両指揮官は、奇しくも同じようなフレーズを口にした。しかし、その意味合いは大きく違っている。互いに目指すものはあり、チャレンジしようと試みたのも同じだが、一方は90分間でひとつ階段を昇り自信を付け、もう一方は課題だけが残った。勝者と敗者は、本来とは違うコントラストに包まれていた。
直近のリーグ戦から先発6人を入れ替えた山形も、天皇杯1回戦と直近の九州大学リーグ戦から3人を入れ替えた日本文理大も、立ち上がりからボールがオンの状態でのミスが目立つ。しかし格上を相手にするときの実力差がその要因の日本文理大と違い、山形のそれは自らの歯車が噛み合わない類のものだった。
公式戦初出場初先発となる山田拓也は4分にトラップミスからボールを失い、決定的なシュートにまで持ち込まれる。18分にはGK植草裕樹から右サイドへのスローイング。広いスペースに付けカウンターを狙うものだったが、サイドに開いただけの山田には上がる意識がなく、ボールが相手に渡るなど、呼吸が合わないプレーが見られた。サイドのスペース使い幅広い攻撃を仕掛けることもできたが、「いつもは『守って攻める』という形が非常に多いんですけど、今日は自分たちがボールを支配している時間が非常に長かったので、そのへんで難しさもありました」(赤星貴文)と、サイドまで運べたわりにはシュートシーンが少なく、そのシュートも枠を外れたり、日本文理大のGK川畑康平に防がれたりした。
自分たちのスタイルにいち早く到達したのは日本文理大。序盤こそ山形のプレッシャーに蹴り出すだけだったが、しだいに前線のターゲットとなるFW砂本貴洋が競るようになり、左サイドから中へ入る武田翔太を中心にセカンドボールを拾って攻撃を展開した。右サイドから空山浩輝が中央寄りでプレーすることで中盤はほぼボックス型。シュートで終われない分、サイドのスペースを使われることになったが、24分にはキムビョンスクが下りた足元に対して新屋敷祐輔のチェイスと武田のバックアップで絡め取るなど、守備にも“慣れ”が感じられるようになった。
山形にとって、停滞感が漂っていたこの時間に先制点が生まれたのは幸運だった。29分、ほぼ中央からの直接フリーキック。古橋達弥がフェイントでまたいだ後、赤星が蹴ったボールはゴール右隅へ。やや置きにいった感はあったが、GK川畑康平が弾ききれずにマウスの中へ。これで勢いに乗った赤星は33分、左サイドをドリブルで突破、そしてクロス。ファーサイドでヘディングを合わせたのは廣瀬智靖。山なりのボールに反応したのがディフェンダーで、キーパーが見送っていたこともあり、追加点が決まって2−0と山形がリードを広げた。
その後の10分余りを一方的な山形ペースで運ばれ、ハーフタイムに戻ってきた選手たちに対し、岡中監督は「後半は自分たちのスタイルを出していこう」と話し後半のピッチに送り出す。山形のサイド攻撃はなかなか止めることができなかったが、ラインを上げて中盤にプレッシャーがかかる状態をつくり、キムがもたつけばたちまち数人で囲い込むなど、山形にシュートシーンをつくらせない粘り強い対応を続けた。
この流れを変えたのは、山田から秋葉勝への交代だった。秋葉はボランチに入るとタイミングのいい縦へのランニングで、それまでチームに足りなかった攻撃枚数を増やしてみせる。そしてチャンスが訪れた。日本文理大のDF植村公亮が治療でピッチを離れていた51分、古橋がペナルティーエリアに入り込んでシュート。弾かれたボールとともにもう一度回り込み、先ほどのシュート地点付近に戻ってきたが、ここでは足を振り抜く前に潰された。植村が戻ったあとも、66分には秋葉の右クロスをスライディングした古橋がニアで合わせ、69分には右サイドをスピーディに突破した廣瀬からのクロスに中央で完全にマークを外したキムがダイレクトで打ち込んだが、いずれも川畑が防いだ。
何度か訪れた山形の決定機はここまで。その後はボールをつないで逆サイドまでスムーズに運びながらも、再びシュートまでたどり着けなくなっていた。逆に、ピンチの間も着々とボール保持を増やしていた日本文理大が、相手へのプレッシャーをさらに強めて反撃を本格化する。73分、相手陣内中央でボールをさらったのは途中出場の梶野翔太。2対2のショートカウンターでペナルティーエリア右に進入したあと、左サイドの池田佳祐に絶妙なラストパスを送ったが、シュートは惜しくも枠外。これで山形が中央を固める意識を高めると、直後には右サイドのスペースを武田がドリブルで上がりクロスまで持ち込んだ。足も止まり、すっかりラインが下がった山形は、その外側で回る日本文理大のボールを取ることができなくなったばかりでなく、ボランチの位置から縦に裏を狙うボールとそれに飛び出す選手への対応でさらにバタついた。82分には空いたバイタルエリアを見逃さず、福井理人が左から中央へドリブルで入り込む。右サイドを駆け上がってきた山口純へボールを渡すと、折り返しには中央で途中出場の黒木翔がジャンプするもわずかに届かなかった。
山形がようやく息を吹き返したのは88分のカウンター。中央のキムから左サイドの途中出場・北村知隆に渡り、ゴール前へのクロス。しかし、長く守備の時間を強いられてきた山形が、守備がそろった日本文理大のゴール前に送り込んだのは古橋のみで、空中で競ってGK川畑のファンブルを誘うのが精一杯だった。88分にキムに代わり出場した財前宣之は、中盤でさばいて再び前線に駆け上がる動きを繰り返したが、シュートまで持ち込めたのはロスタイムに枠の左にそれた古橋の1本のみ。スコアはハーフタイム時から代わらず2−0。すでに明治大が駒を進めた3回戦の対戦相手は、山形に決まった。
「天皇杯の大会を通じて、選手たちが成長してくれて、私監督にとっても非常に有意義な大会でした」
大分県大会の準決勝、決勝と苦しい試合を勝ち抜いて出場権を手にし、本体回1回戦では、格上のニューウェーブ北九州にも競り勝った。そしてこの試合、最後の20分間は山形を圧倒。岡中監督が求める「粘り強さ」を存分に発揮し、自信を手土産に大分へ戻った。岡中監督は「2−0で勝っていれば時間稼ぎをしてもいいと思うんですけども、そこを果敢に攻めてきたというのは、すごくありがたく感じています」と小林監督への謝意を示したが、勝つことを端からあきらめたサッカーであれば、そうした成果も得られなかったに違いない。
一方、勝った小林監督はロッカールームでいつも以上に長いミーティングを終えると、厳しい表情で会見場に現れた。「後半ももう少し自分たちで判断をして回せたり、今状況的に苦しいのできちっと守備をしたりというところが大変疎かだった。Jリーグと違って自分たちが少しボールを持てるので、判断を伴った個人戦術だったりグループ戦術がもう少し、攻撃も守備も出てきてほしかったなあと思います」
3回戦に進めたのは、まずは最低ライン。選手を入れ替えたなかでリーグ戦にプラス・アルファとなる収穫を求めたが、課題こそ残ったものの、自信を伴った形でそれを手に入れることはできなかった。一抹の不安とともに、リーグ戦残留争いの渦中に戻る。
以上
2009.10.12 Reported by 佐藤円