第2クールに入って、樋口靖洋監督が目指すスタイルを見せられるようになった横浜FC。依然としてアウェイでは結果が残せませんが、勝ちに繋がる雰囲気が試合のそこかしこに感じられるようになってきています。その大きなきっかけは、安孝錬選手の加入、そして小野智吉選手の復帰です。京都時代のスタイルと少し違って、ベテランらしい老獪さで攻撃の時間を作る安選手のプレーは、横浜FCの攻撃力を格段に高めています。そして、小野智吉選手は、サイドハーフ、ボランチの両方のポジションで、目立たないがチームに落ち着きを与える働きをしています。
小野選手が横浜FCに加入した2002年からそのプレーを見続けていますが、今年は一番進化しているプレーを見せているのではないかと感じています。目につきやすいところではセットプレー。復帰して以来任されているプレースキックは精度が高くなっており、得点を十分期待させるものになっています。「もともと自分で蹴りたいというタイプではないし、単純に蹴る人がいないからじゃないかな」と謙遜していますが、一方で「自分のゲームの入り方が良くなくても、セットプレーで良いボールが蹴ることができれば、そこで調子が上がることもあります」と、小野のプレーのリズムを形作る大きな柱になっているのは間違いありません。
しかし、そういう目につきやすい部分の他に大きく進化している部分。それはプレーの落ち着きの部分です。特に、横浜FCがボールを持っている時、小野の落ち着いたプレーが、プレーの連動性、リズムの源になっています。
「ボールに行くときはしっかり行くし、ボールを持った時にはある程度力を抜いてリラックスしてやっていこうと心がけています。そういう風に思えるようになったのは、ここ1、2年だと思います。どうしても、気合いが空回りしてしまうタイプだったですが、練習でやっていたことが徐々に試合でも出せていけるようになっているんじゃないかと思います。技術的に上手くなっているというのは多分ないと思うんですが、そういうことで試合の中で余裕が生まれていると思います」
落ち着いて、練習で出来ていたことを試合で出す。当たり前のことのように思えますが、高いレベルでこれを実行することは簡単ではありません。そして、試合の中で良い意味で力を抜く、それを口にできるようになるのはなかなか難しいことです。小野選手のキャリアも決して順調でないですし、怪我で試合に出られないことも沢山ありました。そういう状況の中でもサッカー選手としての進化を遂げ続けているのは素晴らしいことだと思います。
そんな小野選手も、もう30歳。そのことを聞くと「自分では30歳の実感はないし、あまり変わらないです。年齢的にもチームを引っ張っていかないといけないですが、なかなかそういうタイプではないので(笑)。グラウンドで結果を出せるような仕事をしていければいいかなと思っています」と淡々と答えました。しかし、彼の落ち着いたプレーは横浜FCの攻撃を支え、ある意味チームを引っ張っています。今季は12試合しか残っていませんが、彼の落ち着いたプレーに是非注目してください。
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2009.09.16 Reported by 松尾真一郎