横浜マリノスに加入したのは1992年。そして、日本サッカー界が大きく動いたあの日、チームの戦いを国立競技場のスタンドから見ていた。
「(木村)和司さんや、(水沼)貴史さんとか、散々苦労してプロになったので『お前らはいいよな』という話をよくされました。いろんな時代の先輩たちがいて、いまがあるというのは感じます。実際に始まってみたら、自分たちが思っている以上に周りの反応がすごかったですね。毎試合、毎試合、スタジアムは満員でしたから。そう言えば、友だちも増えました。特に親しくなかったのにと思うような知り合いから電話がかかってきて『チケットが手に入らないか』って(笑)」。
日本中が熱狂の渦に包まれた。それが20年前だった。
吉田悟コーチは、川越東高校卒業後、予備校へ行ったり、アルバイトをしながら子どもたちにサッカーを教えていたが、選手としてやり切っていないとの想いから、日産ファームのセレクションを受けて再び選手としてプレー。自らプロ選手への道を切り開いた。選手、指導者として経験した場所は、県リーグからJ1まで実に多岐にわたる。そうした経験から、Jリーグについても、選手強化という側面だけてなく、別の観点からの意見も持つ。
「選手として約10年。指導者として約10年。そして、J1、J2の他、県リーグ、地域リーグ、JFLと様々な場所でサッカーをやらせてもらいました。いま、トップチームの指導に携われているのは身に余る光栄ですけれども、プロを目指す子どもたちや、障害を持っていらっしゃる方々も含めて、普及、育成、強化に携わらせてもらって感じることは、もっと、もっと、サッカーの楽しさや素晴らしさを、多くの人たちに知ってもらいたいということです。選手はファン、サポーターを増やすために、グラウンドでひたむきなプレーを見せるということが第一の仕事ですが、グランド外のところでも活動していかなければいけないんじゃないかと、すごく感じますね」
また、プロになれなかった選手たちの受け皿を、もっと充実させる必要があると話す。
「子どもたちがプロを目指し、努力を重ね、そして、サッカーで生計を立てられるというのは、本当に素晴らしいことです。その一方で、本当に紙一重の差でプロになれなかった選手たちが大勢います。その大半は、就職をして、その後の道が断たれてしまうのが現状です。いまJ3の設立という話も出ていますが、『プロになれなかった=就職しなければならない=サッカーをやめなければならない』という図式ではなく、いろんな意味での受け皿ができたらいいなと思っています。
もちろんJリーグは、夢のある舞台でなければいけないし、最も高い所にいなければいけません。その一方で、地域リーグでプレーしている選手がサッカーを支えている部分もあり、そこからJリーグにつながる環境が、より充実していいけばいいなと考えています。プロになれなくても、仕事をやりながらサッカーをするというのもアリだと思います。日本代表が強くなるためのJリーグというのは当たり前のことですが、それを支える土台がなければ成り立たないわけですから、そういう所に、もっと目を向けていかないといけないと常々思っています」
そして、Jリーグの20年が、確実にサッカー界を変化させていることも感じている。
「Jリーグを見て育った方が親になり、いま、その子どもがJリーグで育つという時期になりましたが、これから2世代、3世代と続けて行くことで、いろんなことが変わっていくと思っています。いま、自分が教えていた子どもたちがプロになりはじめました。これから、その子どもたちが本当に活躍できるのかどうか、それを見ていかなくてはいけませんが、20年経って、ようやくひとつのサイクルができたんじゃないか、ひとつの輪がつながったんじゃないか、そんなふうに思っています」
『百年構想』から見れば、まだ20年。けれど、その20年の歳月が積み重ねてきた歴史が持つ意味は大きい。
以上
2013.05.23 Reported by 中倉一志
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