ずっと先かもしれない。一生のうちにあるかどうか…。そう思っていたものが今年、現実となった。
「元日」でも「国立」でもない。しかし、ここはまぎれもなく日本サッカーの頂点を決する舞台。リーグ戦終了から間もないタイミングで行われるのも例年との違い。史上2クラブ目の3冠を狙うG大阪に、山形は熾烈なJ1昇格プレーオフを勝ち抜いたサバイバーとしての誇りをもって立ち向かう。結果を残し続け、多くの山形県民、出身者、関係者を巻き込みながら進んできた「山形総力戦」は、初タイトルに手をかけて今季ラストマッチを迎える。
2回戦からここまで5試合、リーグ戦と密接にリンクしながら勝ち上がってきた。
最初の3試合はリーグ戦で出場機会がない多くの選手にチャンスが巡ってきた。「ここでの活躍をリーグ戦での出場につなげたい」。その思いを遂げるためにも、チームが負けるわけにはいかなかった。選手個々のモチベーションの高さがハードワークや球際の強さ、チームワークとして表現され、勝利という結果を得るごとに自信と一体感は深まりチームの底上げにつながっていった。ラウンド16・鳥栖戦は延長での1-0ながら、導入したばかりの新システム3-4-2-1で圧倒し、3度目のベスト8進出を果たす。この試合のメンバーが、リーグ終盤を戦うチームの骨格となった。
後の2試合はリーグ戦の主力がそのままピッチでプレーしながらの歴史を創る戦いだった。チーム史上初のベスト4を懸けた戦いは北九州とのJ2勢同士の対戦。ここも1-0ながら内容では危なげないワンサイドの展開で勝利し、すべて1-0でクリーンシートは連続4試合に伸びた。準決勝はリーグ最終節から中2日。先発メンバーを大幅に変えた千葉に2度追いつかれながらも、リーグ戦とほぼ同じメンバーで最後まで走りきり、3点目を奪って決勝の地にたどり着いた。
昨年J2で対戦しているとはいえ、相手は今シーズンのJ1王者。宇佐美貴史、パトリックの2トップは強力、遠藤保仁を中心につなぐ技術も高い。山形はハイプレスの連動性を欠いたり、チームのミスをカバーし合えない状態になれば、自陣ゴール前でG大阪の「個」が際立つ展開に持ち込まれることになる。しかし、そこで腰が引けるようではこの舞台に立つ資格自体を問われることになる。
「いままでやってるサッカーを勇気を持って出していくことが大事」と話すのは、柏の監督として第88回天皇杯でG大阪との決勝を経験している石崎信弘監督。「実力が上のチームに対して臆してしまうと、なかなか自分たちのプレーが出せない。そうではなしに、チャレンジ精神で戦っていくことが一番大事なんじゃないか」。第87回大会4回戦、敵地・万博で直接フリーキックを決めている石川竜也も「G大阪は2冠のチームだし、しっかりした個の力もチーム力もあるが、それに後手後手になったり、引いたりする気持ちはもちろんない。思いきりぶつかっていく、どんな状況になってもやりきるというのはある」とこの一戦への覚悟を示す。
第88回と89回、G大阪が2連覇した当時の主要メンバーだった山崎雅人は、J1昇格プレーオフ決勝に続くゴールを狙う。「優勝のチャンスはあると思うし、そのチャンスを生かすのも自分たち。厳しい時間のほうが多いと思うが、そこをみんなで乗り越えて、ゴールを取れるように頑張りたい」。その山崎とともに天皇杯でチャンスをつかみ、2シャドーとして終盤のチームを牽引してきた川西翔太は期限付き移籍元のG大阪との契約上、古巣と最高の舞台での対戦は叶わなかったが、「このチームは全員が守備の意識があるから、抜かれたあとにすぐカバーに入ったり、一人対応している後ろにカバー、そこにプレスバックして3人いるとか、そういうことを徹底したらやられへんと思う」とハードワークをベースにした守備力で十分に対抗できると見ている。
大きなものを背負って戦う選手たちを、現地まで大勢のサポーターが詰めかけて後押しする。さらに山形から、東北から、全国から、山形の勝利を願う人たちの強烈な念が届くはず。仲間を信じ、労を惜しまず、チャレンジャーとして勝利をめざす。ふだんどおりの姿勢を貫けたなら、新しい歴史の扉をもう一つ開くことも可能だ。
以上
2014.12.12 Reported by 佐藤円
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