“オリジナル10”の清水エスパルスが来季もJ1で戦うことができるのか。それがかかった大勝負が、このホームで迎える最終節。「幸運にも他会場の結果を気にすることなく、自力で残留を決めることができる」と大榎克己監督が語るように、清水は引き分けで自力残留を決めることができる。また、もしも敗れた場合でも、大宮が引き分け以下なら残留が決まるという状況だが、もちろんそれに頼る気持ちはチームの誰も持っていない。
清水の選手たちも、同じ静岡県のジュビロ磐田が日曜日のJ1昇格プレーオフで終了直前に悲劇的な負け方をしたのを目の当たりにしており、「引き分けでOKという気持ちではやられてしまうと思う」(長沢駿)、「最後にもし引き分けで終わったらしょうがないと思いますけど、ホームなので勝つことしか狙ってません」(平岡康裕)と、チームの全員が勝って残留を決めることだけを考えている。
ただし、今の甲府は勝つのが非常に難しい相手だ。直近9試合でわずか3失点しかしておらず、6戦無敗。29節では当時首位だった浦和に0-0のドロー、前節のF東京戦も相手に90分間でシュートを3本しか打たせずに0-0で終わっている。奪われた直後はしっかりとボールに対してプレッシャーをかけ、前で奪いきれなければ素早く最終ライン5枚、中盤4枚の守備ブロックを作ってゴール前に分厚い砦を構える。そうした守備への切り換えや状況判断も含めて、チームの意識がしっかりと統一されていて、球際での個々の強さもあり、今はJ1でも屈指の守備力を誇っている。そして、その守備力でボールを奪ってからカウンターというのも大きな武器になっている。
そのため、簡単には点が取れないことは清水の選手もスタッフも承知しているが、「無理して前に前に人数をかけて攻めるというのはカウンターを受けるリスクもありますが、自分たちが主導権を握って相手陣内に押し込む時間を多くすることが、勝利に近づくために大事なことだと思っています」と大榎監督は言う。清水は、今回ボランチを2枚にすることが予想されるが、そこでリスクマネージメントをしっかりと維持しながらボールを保持する時間を長くすれば、なかなか攻め崩すことができなかったとしても、失点のリスクは減り、ピンポイントのクロスやセットプレーでゴールを狙うこともできる。
また、甲府がカウンターに来たところを奪い返して逆にカウンターで攻めるという形も有効だ。その場合には「監督にもよく言われますが、きれいな形でクロスを上げるだけじゃなくて、もっと早いタイミングで相手が整う前にアーリークロスをどんどん入れていく意識も大事」(吉田豊)という部分もポイントになるだろう。シーズン最後にようやく実戦復帰がかなった191cmのFW・長沢駿は、まだどういう形で起用されるかわからないが、彼が出場した際には、ノヴァコヴィッチとのツインタワーの高さをシンプルに生かすことも効果的なはずだ。
いずれにしても清水としては、思い切って攻めにいくところと、冷静にボールを保持して簡単に失わないところのバランスがとても重要になる。「相手が(守備の体勢を)整える前に攻めきりたいし、でも慌てないでしっかりボールを持つべきところは持ちたい。いちばんイヤなのは取られ方が悪くてカウンターを受けるということなので、そのへんの判断がすごく大事になると思います」(高木俊幸)と、選手たちもそのあたりは十分に理解している。あとは、大きなプレッシャーがかかる中で、どれだけ冷静に状況を見ながらプレーできるかにかかってくる。
一方、甲府のほうは、第32節終了時点でJ1残留を決めており、来季はチーム史上初めて3季連続J1で戦うことになる。そのため清水ほどの切迫感はないが、3年間チームを率いてきた城福浩監督が今季限りでの退任を発表しており、城福監督のラストマッチを勝利で飾りたいという選手たちの思いは強い。「どんな結果で終わっても胸を張れるような試合をしたい」というのは城福監督がつねづね言っていることだが、ここに来て非常に完成度が上がってきた自分たちのサッカーを最後により良い形で披露し、リーグ戦ではまだ勝ったことのない相手(清水の8勝1分0敗)から初勝利を挙げることが城福監督への最大のプレゼントになる。
戦力的には、ジウシーニョや松橋優はケガで欠くことになりそうだが、キリノの調子が上がってきたのはプラス要素。今回も自分たちの戦い方を続けて清水にシュートを打たせず、決めるべきところを決めて勝つというのが、甲府のシナリオだ。
さまざまな状況を考えても、引き分けで良いとはいえ、清水にとっては本当に難しい試合であることは間違いない。今までの試合にはない大きなプレッシャーがかかることも間違いない。だが、それ以上に絶対に残留しなければならないという思いは強い。「自分が小さい頃からエスパルスはJ1のチームというのが普通だったし、J1にいなきゃいけないチームだと思います。今は自分がチームの助けになれる立場にいるし、ユースの頃から大榎さんにはお世話になっているし、何としてもチームのために頑張らないといけない」と、子どもの頃から清水サポーターでもあった石毛秀樹は言う。
チケットは早々に完売し、スタンドは超満員になる見込み。「プレッシャーはもちろん感じているし、それを感じるのは当たり前のこと。だけど、満員のスタジアムの中で残留してほしいというサポーターの強い想いは伝わってくるだろうし、楽しみでもあります」と語るのは、ドイツで残留争いを経験したことのある大前元紀。「プレッシャーもあるはずだけど、それを戦うエネルギーに変えていこう」という大榎監督の言葉を、サポーターの熱い後押しを受けた清水の選手たちは、必ずピッチ上で実践してくれるはずだ。
以上
2014.12.05 Reported by 前島芳雄
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