最高のシナリオだった。シーズン最終戦、愛媛相手に2度のリードを許した群馬だったが、サポーターの後押しを受けてチームは後半に底力を発揮した。沈黙した前半とは見違えるような戦いをみせて怒濤の3ゴール。今季限りでの退任が決まっている秋葉忠宏監督のラストバウトを逆転勝利で飾り、2014シーズンを華やかに、そしてド派手に締めくくった。
前半はブーイングやむなしの内容だった。風下というエクスキューズはあったにせよ、あまりにも不甲斐ないゲーム。攻撃は鋭さを著しく欠き、守備はシステムがハマらずに劣勢を強いられた。ゴールへと向かうべきベクトルがアタッキングサードで失速、自陣に引いて守る愛媛の守備網にひっかかり、カウンターにさらされていく。
失点は必然だった。リズムをつかむことができない群馬は後半6分、ハン ヒフンのヘッドでゴールネットを揺らされてしまう。だが、それによってチームは目覚める。後半19分、敵陣でボールを奪ったダニエル ロビーニョが快速ドリブルでペナルティエリアへ突進、個人技でゴールをこじ開けて同点へ追いついてみせる。だが、直後に守備の連係ミスからあっさりと失点、スタジアムには敗戦ムードが漂い始める。しかし、それもゲームを盛り上げるための演出だった。
反撃の狼煙(のろし)を上げたのは青木孝太だ。途中出場でピッチに立った青木孝は、闘争心あふれるプレーでチームを鼓舞。相手をなぎ倒して進むドリブルは、殺気が漂うほどだった。「嫌な流れを全部変えてやろうと思っていた」(青木孝)。そんな姿勢が、同点ゴールを呼び込む。後半31分、愛媛DFが右クロスへの対応を誤ると、こぼれたボールが右足に当たって2−2。青木孝のゴールによってトップギアとなった群馬は、本能のまま愛媛に襲いかかっていく。
残り15分で群馬が魅せたサッカーは、秋葉監督が2年間にわたり追求してきたものだった。果敢なプレスで激しくボールを奪い、全員がリスクを負って前線へと飛び出していく。ポジションは関係なかった。平繁龍一、ロビーニョ、エデル、青木孝、永田亮太、久富良輔らが入れ替わりでバイタルへ進入し、ゴールへと突き進む。「野武士のように荒々しく」。2年前の監督就任時に指揮官が発した言葉が、現実となった瞬間だった。
クライマックスは、アディショナルタイムの90+1分。青木孝のスルーを受けてペナルティエリアに入ったロビーニョがゴール前へラストパス。それをエデルが冷静に蹴り込んで、白熱のシーソーゲームに終止符を打った。「最後に自分のゴールで勝利することができてうれしい。チームの仲間全員で奪ったゴールだ」(エデル)。最終戦でのエキサイティングな逆転劇は、集大成と呼ぶにふさわしい今季のベストバウトの1つとなった。
秋葉監督の2年間は終わった。やんちゃで頑固なスタイルは、現役時代から何も変わっていなかった。歯に衣着せぬ物言いで、波紋を広げることもあったが、すべてはチームを愛するがため。すべてはクラブを発展させるがため。クラブ初のOB監督は、ありったけの情熱を傾けてチームの指揮を執った。だが、結果が出せなかった。昨季は20位、今季は昨季の9勝を大幅に上回る14勝を挙げたが、4・5月の6連敗、8・9月の4連敗が響いて18位。チームの成長を順位に反映できなかった。
プロである以上、結果は受け止めなければならない。秋葉監督は、責任を負う形でチームを離れる。順位でのインパクトは残せなかったが、今季の勝ちゲームの興奮と余韻は観る者の心に深く刻まれている。獰猛果敢なアグレッシブフットボール。どんな状況に陥ろうとも愚直に信念を貫き通した熱血指揮官は、いばらの道を進みながらも群馬の歩むべき方向を示した。志半ばでチームを去る秋葉監督は「チームの未来はサポーターとともにある」という言葉を残して、静かにスタジアムをあとにした。
以上
2014.11.24 Reported by 伊藤寿学
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