青と赤は、背伸びをせず、地道に積み重ねたサッカーの前に屈した。F東京は22日、味の素スタジアムで新潟に1-3で敗れた。ホームで先制しながらも次々と失点を重ねて逆転負け。今季堅守を誇ってきたF東京だったが、焦心につけ込まれてしまった。
新潟のMF山本康裕は試合後、こう振り返った。
「相手の守備はスカスカだったので90分間自由にプレーできた」
今季1試合平均1失点以下だったF東京が、新潟の鮮やかな攻撃になす術なく3失点したのだ。
立ち上がりは完璧だった。開始7分、右サイドでボールを受けたFWエドゥーが縦へと突破。これにトップ下の河野広貴が反応し、ゴール前へと飛び込む。グラウンダーのボールを倒れながら押し込み、F東京が先制した。
「先制すると、負けない」
その自信があった。このまま試合を優位に運ぶはずだったが、そのエピソードはあっさりと書き換えられてしまう。
新潟の柳下正明監督は、試合後の会見で、この日に向けた周到な準備を明かしている。
「相手が守備の陣形をとっているところにスペースがあった。特に米本(拓司)のサイドに。米本が中に絞る分、新潟の右サイドにはスペースがあった。そこをうまく使いながら、向こうがスライドしてきたらサイドを変えることが落ち着いてできていた。ハーフタイムに前半の内容をそのまま続けようと話した。ただ、最後のクロスの精度が低いので、ボールをしっかり見て入れていこうということを伝えました」
F東京は攻撃に枚数をかけるため、中盤を3枚にしている。そのため、ピッチの横幅68メートルをカバーするには、その3選手が素早く横にスライドしなければいけない。そこに目を付けた指揮官は、ボールを保持しながら巧みなボール回しでF東京を攻略して見せた。
その一躍を担ったのが、レオ・シルバだった。最終ラインからボールを引き出し、ボールキープ力と展開力でF東京のプレスを機能不全にした。ボールを奪われず、正確にサイドチェンジを行う彼がいることによって、F東京の守備は混乱に陥ったのだ。横に揺さぶられて中盤のスライドは 間に合わず、山本が言うように、F東京の守備は「スカスカ」になってしまっていた。そこから新潟はいとも簡単に3度ゴールを揺らした。前半33分、レオ・シルバが小林裕紀につなぎ、さらに田中亜土夢へとボールが渡る。その田中は、縦へと仕掛けて相手DFを引きつけると、右に開く指宿洋史にパス。ボールを受けたストライカーは、右足を振って同点ゴールを挙げた。
69分には、新潟がレオ・シルバの豪快なFK弾で逆転に成功。78分には鮮やかなパス回しで試合を仕上げる。右サイドでパスを受けた指宿がキープ。パスを受けた田中が相手最終ラインの裏に通し、飛び出した山本がダメ押しとなる3点目を決めた。
新潟には、この試合展開を生み出すための下地があった。ボールを保持し、自分たちの時間を増やすスタイルは、一朝一夕では身につけることはできない。彼らのサッカーからは、しっかりとしたトレーニングの跡がうかがえた。
それと同時に、F東京が長年掛けて培ってきたモノの痕跡はこの試合には存在しなかった。羽生直剛は、この完敗を苦々しい顔で振り返った。「中盤で止めないといけないのに、カバーする範囲が広すぎてぼかすことしかできなかった。前から行くのか後ろでコンパクトにするのかを判断しなければいけなかったが、バラバラだった。結果的に攻守両面で距離感が悪く、簡単に前を向かせてしまっていた」
相手にボールを保持され、自分たちの戦い方を見失ってしまった。F東京には焦りが生まれ、そして統率を失っていた。ベンチのマッシモ・フィッカデンティ監督もシステムを変更し、それに対応しようと試みたが、その声はピッチには届いていなかった。
羽生は深いため息とともに、こうも言った。「勝っているときのポゼッションも必要。みんながボールを引き出すことができていなかった。クラブ全体のメンタリティはまだまだ未熟なのかもしれない。全力を出し切って負けるのなら、今日来てくれた4万2000人も納得できる。だけど、プロとして甘い。来てくれた人たちのために示さなければいけなかった」
新潟はこの日得た手応えを糧に、残り2戦を戦うだろう。
「では、F東京は?」その先の答えを出す舞台は、まだ2度残されている。「勝ち方のABC」を学ぶ機会はまだあるとい うことだ。
以上
2014.11.23 Reported by 馬場康平
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