2014シーズンJ1最終戦。ニッパツ三ツ沢球技場で対戦する横浜FCと北九州は、残念ながらJ1昇格プレーオフに出場することはできない。しかし、両クラブの歴史にとって、単なる一戦ではなく、クラブの未来に繋がる極めて大事な一戦となる。
ホームの横浜FCは、11月13日に、横浜のサッカーのレジェンドである山口素弘監督の契約満了を発表した。2012シーズンの途中から、出口の見えない状態に陥っていた古巣・横浜FCの指揮を執る。一貫して丁寧にボールを前に運び、攻守の主導権を握りながら相手を崩していくサッカーを貫く。2012年は見事にチームを立て直してJ1昇格プレーオフに進出。2013年、そして今年と、そのぶれないチーム作りは、毎年大幅に選手が入れ替わる状況でも、必ずチームを中盤から後半に掛けて浮上させてきた。横浜フリューゲルスでプロのキャリアをスタートさせ、日本のワールドカップ初出場の年に起こった悲劇的なチームの消滅をチームの中心メンバーとして経験し、2005年に横浜の地に選手として帰ってくると2006年のJ1昇格の原動力となる。そして、2012年に監督として横浜に戻ってきた山口素弘。そのラストゲームは、横浜FCというクラブにとっては必ず勝たなければいけない試合だ。横浜FCというクラブの歴史を振り返ってもわかるように、クラブの歴史に「リセット」はない。必ず何かの積み重ねの上に存在する。山口監督が横浜で歩んだ歴史は、横浜FCと横浜のサッカーの喜怒哀楽の積み重ね。その重みは、横浜のサッカーに関わる誰もが深く胸に刻んでいるはずのものだ。
故奥大介氏と熱く横浜FCの将来を語り合っていた山口監督は「横浜FCのアイデンティティを作りたかったね。大きい企業に支えられたクラブではないのは間違いないので、普通に愛されるクラブにしたかったし、楽しいサッカー、気持ちが伝わるサッカー、躍動感のある試合、プレーをしたいと。そういうチームを作り上げたいと思っていた。派手じゃないけど地味に作業をしていく。色々区民デーとかやっているけど、そういうことをね。現場が一体感を持って、クラブが一体感を持ってクラブを良くしようとして、サポーターがそれに同調して一体感を持つ応援をする。三ツ沢という舞台はそういうことが生み出されるところだよね」と、横浜FCに対する熱い思いを語った。選手も異口同音に「素さんからは多くを学んだだけに恩返しをしたい」と意気込みを語る。その意味で、この一戦もクラブの歴史にとって大事な試合となる。
前節の湘南戦の警告で、今シーズンの中心メンバーだった松下年宏、松下裕樹のW松下と、ドウグラスが出場停止。けが人もあり、スターティングイレブンを組むだけでも一苦労の状況ではあるが、横浜が誇る最高のスタジアムであるニッパツ三ツ沢球技場で、クラブ、そして山口監督の輝ける将来のための一勝を挙げたい。
対する北九州は、J2の歴史において今年大きな偉業を達成しつつある。クラブライセンスの問題でJ1に昇格できないという状況の中で、常に昇格プレーオフの出場圏内である6位をキープ。おそらく、昇格プレーオフという制度が出来たときに、ルール上は存在してもあまり想定されていなかったであろう状況を作り出している。この試合に勝てば文句なく6以内を確保し、ライセンスを持ちながら勝てなかった強豪クラブを見返すことができる。そして、そのことは、北九州というクラブが近い将来にJ1のクラブライセンスを得た時に向けた大きな財産となる。その意味で、北九州にとってもクラブの尊厳が掛かった試合となる。2年目の柱谷幸一監督のもと、バランスが良く、抜け目の無いサッカー、そして池元友樹を中心としたゴールへのはっきりした道筋を磨いてきた。その集大成を見せつける試合となる。池元、八角剛史、渡邉将基と、かつて横浜FCで活躍した選手も、この試合では自らの意地を見せつけたいと考えているはず。北九州は、クラブの尊厳、そして選手の意地を全てピッチ上に見せつけるだろう。
前回の対戦(5/3 第11節@本城)では、横浜FCがセットプレーで先制するも、後半オウンゴールで北九州が追いつくと、圧力を強めた北九州が大島秀夫のゴールで逆転勝ち。まさに、北九州の抜け目なさ、地力を見せつけた試合だった。今回の対戦でも、ボールを保持する横浜FCに対して、バランスの良い攻守を見せる北九州が隙を狙う展開となる。横浜FCとして、立ち上がりから先制点を狙って主導権を握ること、北九州にとっては横浜FCの隙を確実に仕留めることが勝利への鍵となるだろう。
横浜FC、北九州ともに、これまでのクラブの歴史がある。何故そのクラブは存在し、どこを目指すのか。クラブそれぞれにその由来やアプローチは異なるが、Jリーグが目指すのはクラブのアイデンティティが地域と共有され、歴史を重ねていくことだ。より明るい将来のための歴史の1ページとなる、大事な一戦が始まる。
以上
2014.11.22 Reported by 松尾真一郎
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