夕凪に包まれていた本城で後半、さざ波が立ち始める。何かを起こすべきざわざわとした潮騒。やがて大きなうねりとなってゴールを誘った。うねりを巻き起こし、波穂に立ったのはエースストライカー・池元友樹。「1試合でも決めてチームの勝利に繋げていければ」。九州リーグ時代のニューウェーブ北九州でも15得点を挙げていた池元はいま、自ら波を起こし、その波に乗り、よりハイレベルなリーグで15ゴールの記録に並んだ。
試合開始時に吹いていたゆるやかな風は20分過ぎにはぴたりと止み、本城は珍しく凪に入った。ゲームのほうも無風で前半はスコアが動かなかった。それは「ゲーム全体の流れでいけば今年のうちのノーマルな流れだった」という柱谷幸一監督の言葉の通り、北九州からみればプラン通りだった。
岐阜は前半から結果を出そうとする意識が高く、3試合ぶりの出場となったナザリトにシンプルに供給。ただナザリトの自由を北九州のセンターバックの渡邉将基と前田和哉が抑え込むと、供給源の高地系治にもその対戦を心待ちにしていた八角剛史が厳しくアプローチ。岐阜はクロスに代わる選択肢のアイデアを出せずボールを持ちながらも迫力が空回りしてしまった。後半は遠藤純輝、比嘉諒人を相次いで投入し、攻撃のさらなる活性化を狙う。それが奏功してペナルティエリア内への侵入回数も増えるが、枠内に飛んだシュートを北九州の内藤洋平がヘディングではね返すなど北九州の集中は途切れずゴールが近づいてこなかった。
北九州は岐阜の猛攻にさらされ耐えることから後半が始まる。どこかで自分たちに流れを引き寄せなければならなかった。その苦しい時間帯、凪に張った帆に風を送り込んだのは池元だった。
前線で献身的に動いていた池元は64分、敵陣右サイドで得意のドリブルを活かしてボールをキープ。相手を引きつけて守備バランスを崩すと前線で待つ原一樹に加えて、小手川宏基、風間宏希が攻撃参加していく。この池元の送り出したボールを起点に風間と原のコンビネーションが決まり風間が先制ゴールを挙げる。「味方のボールの持ち方とかで自分がどのポジションを取るべきかはみんな少しずつ理解し始めている」と風間。池元の熱いドリブルから展開されたスピーディーな攻撃がしっかりとはまり、託された風間の技術も相まってゴールを呼び込んだ。
池元は自ら作り出した流れに自分もまた乗っていく。83分、冨士祐樹のフィードにセンターアーク付近から抜け出すと、一気にドリブルでボックス内にまで入り右足で冷静にゴールへと送り込んだ。「相手とも上手く入れ替われたので、あとは落ち着いて決めるだけだった」。
池元の真骨頂と言えるゴールシーン。ボールとゴールを池元に預ける仲間の厚い信頼と、責任感を背負ってうねりを生み出すエースストライカーの意地があった。ゴール後、満面の笑みでベンチに走り揉みくちゃにされた池元。指揮官も手放しで喜んでいた。「(原と中盤4人が)いいアシスト、サポートをイケ(池元)にしていることによって、最後に決めるイケがその決定力を発揮できている。イケ本人も言っているがチームで取っているゴールだ」――。アディショナルタイム、交代のために一足早くピッチを後にする池元に送られた拍手もひときわ大きかった。
今節のプレビューではピッチ上の11人の共通意識と頑張ろうとする姿勢が勝敗を分けると書いたが、果たして試合をものにした北九州はそれを達成できた。もちろん連係のちぐはぐな場面が皆無だったとは言わないし、コンディション面などから選手の入れ替えもあった。それでもゴールを目指す姿勢と、岐阜・ラモス瑠偉監督が「守備の集中力が抜群だった。自由を与えられなかった。90分の集中力は今の北九州の怖いところ」と認める気持ちの強さを北九州は示すことに成功した。流れを作り出し、引き寄せ、勝利する。38節目に見せたひとつの完成形だった。
岐阜もフレッシュな顔ぶれで臨み、一定の成果は得られただろう。ただ得点を取るという面を突き詰めれば、やはり攻撃は単調すぎたかもしれない。「下手すると残り全部負けるという恐ろしさがある。彼ら(選手)は気づいていない。もうちょっと必死さがあるべきだ。来年に誰が残るか分からない中で、残り1ヶ月もないのにこんな余裕でやっていいのか」とラモス監督。やりきれない思いがにじんでいた。残り試合で劇的な変化を与えることは難しいが、失敗を怖れずにチャレンジする気持ちを出し続けたい。
凪に舞える北九州。3位磐田とも勝点で並んだ。視界良好。仲間とともに起こす風、上位へと繋がる波を信じて帆はまだ張り続ける。
以上
2014.10.27 Reported by 上田真之介
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