山形は公式戦で3連勝中。北九州と争った10月15日の天皇杯準々決勝でベスト4進出を決め、中3日で迎えた前節は、過去5戦5敗の岡山戦だったが、2分、8分に得点を挙げて序盤からリード。後半にはさらに2点を加え、4−1と勝利した。リーグ戦で今季初の連勝をようやく達成し、その結果として今季初めてプレーオフ圏内、6位への浮上も果たしている。
いくつもの好要因が噛み合っているからこその結果だが、もっとも大きいものは前線からの守備だ。石崎信弘監督もその手応えをこう語っている。「あれだけ前がディフェンスしてくれれば。前節も、天皇杯も、(前々節の)長崎戦もそうだったけど、ほとんどハーフコートだよね。相手陣地でサッカーするというのが目標だから」。シュート数にもそれが表れ、天皇杯準決勝を含む先週3連戦は12対8、22対5、13対6。3バックの一角に入る當間建文も「前線から追ってくれるディフェンスの部分がデカいと思うし、僕らが主導権で始まる試合展開にすれば自然と流れは絶対よくなると思う」とディエゴ、山崎雅人、川西翔太の1トップ2シャドーの存在の大きさを語る。最近5試合で4得点の川西は中盤でボールを失わず的確に配球する起点としても大きな役割を果たしている。
結果につながっているこうした状態は一般に「勢い」と評される。しかし、それは次の試合での勝利を約束するものではない。序盤に得点が取れなかったら、前線からの守備がかからなかったり剥がされたりしたら、自陣でプレッシャーを受ける展開になったら、先に点を奪われたら…、さまざまな「if」はこのあとの5試合でいくらでも起こり得る。J1昇格の権利は、有形無形のプレッシャーのなか、そうした厳しい状況でも結果を残し続ける者にしか与えられない。ましてや、リーグ戦終盤の終盤、ラスト5試合では、まさかの事態がよく起こるもの。勝点1差に2クラブが着けるなど7位以下はいまだに混戦だ。「別にみんな6位を守ろうなんて考えていないと思う。目の前の試合に勝つということだけ考えてみんなやってきている」と石井秀典。プレーオフのボーダーラインをまたいでも、やるべきことは変わらない。
前節・栃木戦で3−0と勝利し、連敗を3で止めた横浜FCは勝点48で11位。残り5試合を残して今節対戦する6位・山形との差は7。プレーオフ進出の可能性を残す段階でなんとか踏みとどまっている。栃木戦では前半に黒津勝が2ゴールを挙げるなど優位に試合を進め、後半途中にボランチからトップ下に上げた寺田紳一がダメ押しのゴールを決めてクリーンシートも達成。山口素弘監督は「やってくれたかなというところもあるし、まだまだ、もっと出来るよというところもある」としながらも、「攻守において自分たちからしっかりアクションを起こそうというところを意識して取り組んでくれました。非常に良かったんじゃないかなと思います」と、狙いに沿った試合内容に持ち込めたことを明かしている。
黒津は前回の山形戦でもカウンターから決勝ゴールを決めている。川崎F時代に2年半指導した石崎監督も「いい選手だよ。身体能力高くて、左足のシュートを持ってる。まずはそこを一番警戒しなきゃいけない」と教え子への評価は高い。また、黒津に絡んでプレーする野崎陽介もスピードに乗った飛び出しや、ペナルティーエリア付近でのこぼれ球への反応と小回りを利かせてシュートまで持ち込む動きで相手の守備をかき回す。そうしたチャンスシーンに持ち込むためにも、今節は山形のハイプレッシャーをいかにかわすことができるかが大きなポイントとなる。サイドチェンジを入れることで数的優位やポジショニングのアドバンテージを利用して攻める意識は高く、クイックリスタートを常に狙う姿勢もある一方、プレッシャーを受けながらのつなぎではまだミスが多い。中盤でプレーする寺田や松下年宏にいい形でボールが入るだけでなく、そこからさらに周囲の連動と正確なプレーが要求される。
今節、山形はJリーグでのホームゲーム通算入場者数が200万人に達する見込みだが、今シーズンに限って見れば、ここまでの1試合平均は5,926人と6,000人を割り込んでいる。勝点51、10位・京都までの上位10クラブと比較しても、J1ライセンスを持たない北九州に次いで2番目の少なさ。3番目の京都が7,500人台、ほか7クラブはすべて8,000人オーバーで、観客動員では昇格争いのライバルたちに大きく水を空けられているのが現状だ。来シーズンのチーム編成にも大きく影響する問題だけに、熱しかけたチームへの差し水になり兼ねない。クラブでは「天皇杯ベスト4進出」や「リーグ戦プレーオフ圏内突入」を追い風に、監督・選手も動員してメディアへの露出や街頭でのチラシ配布活動などを行っている。今節を含むホームゲーム残り3試合で挽回を図り、山形全体を巻き込む熱風に換えることができるか。大きな意味で、J1でプレーする資格が試されている。
以上
2014.10.24 Reported by 佐藤円
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