勝敗を決したのは、藤本淳吾が古巣・清水ゴールに見舞った恩返し弾だった。58分、右サイドでボールを受けた藤本は左足で持ち出し、カットイン。敵の寄せが緩いこともあり、中距離ながらシュートレンジが生まれ、迷わず左足を振り抜く。本田拓也の捨て身のタックルも間に合わず、清水にとってはDFに当たりコースが変わる不運もあり、ゴール右隅のネットにボールは吸い込まれた。試合後、藤本は今季初得点を挙げた開幕戦以来となるお立ち台に上がると、「兵藤のおかげ」と同僚を称えた。それは第1子が誕生したばかり兵藤に対するリップサービスではない。事実だ。
得点シーンを巻き戻して見ると、よく分かる。兵藤は、中澤佑ニの縦パスを敵DFの間で受けて藤本に落とす。次に鋭く縦を突くフリーランを開始し、相手DFを引きつけていたのだ。それで、藤本に対するマーカーの対応が一瞬遅れて、前記のゴールが生まれた。しかも、この日の兵藤のポジションは本来より一段低いボランチ。セカンドボール争いで負けないことを念頭に置きつつも、「普段通りにやっただけ」と高い位置でよくボールに絡み、決勝点時はその最たるプレーだ。
かといって、無謀に前線に顔を出したわけでない。「ヒョウ(兵藤)は気を使える選手」とWボランチを組んだ富澤清太郎が評したように、他のMFの位置取りを気にしながら、適切なタイミングで前へ飛び出した。また、セカンドボールに即反応するための絶妙なポジショニングも、地味ながら秀逸。そんな彼のバランス感覚のよさが、3戦ぶりの白星を手繰り寄せた。
この日は他の選手の活躍も目に付いたが、中でも特筆すべきは、3戦ぶりに復帰した中村俊輔だろう。長短+ダイレクトを織り交ぜたパスが冴えわたり、清水DFを翻弄。61分、62分と2度迎えた佐藤優平の決定機も、ともに中村のスルーパスが起点に。また改めて唯一無二の存在であることを、黄金の左足で知らしめた。
ベテランの勇躍が際立った横浜FMとは逆に、この日の清水は、若さが裏目に出てしまった印象を受けた。直近の公式戦2連勝を飾った際は、勢い漲るプレス守備が奏功したが、この日は全くといっていいほど、プレスが掛からない。相手の決勝点直前の場面、中澤から兵藤への長い縦パスを難なく通されたのも、その表れだ。
前線でプレスを掛ける前に一つ裏を通され、アンカー本田の両脇にできるスペースを使われた。さらに、サイドでパスを回されることで守備のギャップが生じ、多くの時間帯で押し込まれ続ける。そこで若いチームはどう守ればいいのかという迷い、動揺が芽生えたのではないか。攻守に置いて「中途半端」(本田)になり、立て直す方策を見出せないまま、時間だけが過ぎていった。
それでも81分、横浜FMゴール前でビッグチャンスがあった。相手の小さなクリアボールに反応した石毛秀樹がボレーで同点弾を狙ったが、痛恨の空振り。だが、彼を責めることはできない。チームとして前後半でシュート計4本だけでは、そうそうゴールを奪えないからだ。次は中3日でホームに新潟を迎える。時間的には厳しいが、ゴール裏に掲出された横断幕「J1死守絶対残留」のために、まずは切り替えるしかない。
以上
2014.10.19 Reported by 小林智明(インサイド)
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