今シーズンのリーグ戦ではすでに2試合を終え、互いにアウェイ戦を制しての1勝1敗。思いがけない巡り合わせで、決着をつける舞台が用意された。3度目のベスト8進出を果たした山形と、ベスト8が初めての北九州。勝てばともにクラブ史上初のベスト4進出。準々決勝唯一のJ2同士の対戦は、新しい歴史を創る権利を懸けた一戦となる。
ともに2回戦から登場し、山形はJ2熊本、JFLソニー仙台、J1鳥栖を破ってきた。鳥栖戦のみ延長戦にもつれ込んだがスコアはすべて1-0といまだ失点なし。3試合ともリーグで試合出場の少ない選手が大胆に起用され、その選手たちのモチベーションの高さが集中力高いパフォーマンスにつながっている。また、天皇杯で起用され活躍した選手がリーグ戦の出場をつかみ、チームに新たな活力を注入してきた。2シャドーの山崎雅人、川西翔太がその象徴的な例だ。そのリーグ戦では今季連勝がなく波に乗り切れない仲で、連敗も3連敗が一度だけ。コツコツと勝点を積み重ね、直近の長崎戦では逆転勝利。今季一度も踏み込めなかったプレーオフ圏内まで勝点2差に迫っている。リーグ戦での可能性が徐々に広まるなか、天皇杯でも過去最高のポジションを懸けた重要な一戦を迎える。
北九州は2回戦からJ2東京V、J1横浜FM、J1甲府とJ1勢を2クラブ撃破。その2試合はいずれも延長となり、甲府戦ではPK戦にまでもつれ込んだが、リーグ戦同様にしぶとく勝ち上がってきた。山形と違い、北九州は天皇杯でもリーグ戦とほぼ同じメンバーが起用され、フォーメーションや戦術もリーグ戦から一貫している。その熟成度が競った試合やジリジリと辛抱強さが必要となる試合で発揮され、リーグ戦16勝のうち12勝が1点差。効率のいい戦い方で効率よく勝点を積み重ね、4月29日の第10節以降、プレーオフ圏内に定着してきた。来季のJ1ライセンスを持たず、6位以内に入ってもJ1昇格が実現できない中での大躍進だが、天皇杯であれば確かな「実」を手にするチャンスは残されている。北九州をこの大会へと向かわせるモチベーションが小さからぬものであることは容易に想像できる。
リーグ戦では北九州が勝点58で4位、山形が勝点52の8位と北九州が上位。「堅守の北九州、攻撃力の山形」のイメージもあるが、得失点を見ると、得点は山形43に対して北九州44と北九州が上回り、失点は山形35に対して北九州41と山形の失点が少ない。さまざまな見方ができるが、それだけ山形は攻撃力を得点につなげる部分で苦心が続き、北九州はここまでの10敗のうち3失点以上の敗戦が5試合あるなど、崩れた時の脆さを内包してきたとも言える。また、この一戦に大きな影響を与えそうなのがスケジュールの問題。ともに中3日で迎えるが、ホーム連戦で迎えられる山形に対し、土曜日に栃木で試合を行った北九州はアウェイ2連戦となる。さらに台風19号の影響で13日のトレーニングを中止するなど、限られた時間の中でイレギュラーな対応を強いられている。
山形が3バックにシステムを変えてからは初の対戦となる。山形はハイプレッシャーと前線3人が絡んだカウンターが狙いの中心になるが、北九州がブロックを敷くため、ボールを持ちながら遅攻で崩していく精度も求められる。その際に最大限に神経を傾けるべきはリスク管理とそのポジショニング。前がかりになり過ぎたり、不用意にボールを奪われると一気にピンチを迎えることになる。守備への切り換えでしっかりとファーストディフェンダーが定まり、縦のボールを蹴らせない、蹴られても競ってセカンドボールを拾うという態勢を常に整えておきたい。北九州は自陣に構えたブロックの外で相手にボールを回させる状態が理想。クロス対応ではセットされた一発目は防げても、こぼれ球などリフレクションの反応で後手を踏むケースかある。奪ったあとは山形のプレッシャーを受けることになるが、落ち着いてかわせる足元のスキルはある。転じて攻撃が機能するかどうかは、2トップにボールが収まるかどうかがバロメータで、両サイドハーフのサポートまで進めば形ある攻撃が実現できる。小手川宏基から池元友樹へのホットラインは直近の岐阜戦でも得点の可能性を感じさせていた。
立ち上がりからパワーをかけ先制点で優位に立ち、追加点で突き放したい山形と、攻撃回数は少なくとも1試合トータルの試合運びで相手の隙を狙い続ける北九州。今季2試合はともに山形が前半で先制し、初回は山形が守りきり、前回は北九州が逆転で勝利を収めている。「体を動かすのは気持ちだと思っている」と話したのは長崎戦で逆転のアシストを決めた中島裕希。タフな連戦や好ましくない状況も、自らがたくましさを得るための欠くべからざる試練。万難を排し、絶対に逃すわけにはいかない大一番に臨む。
以上
2014.10.14 Reported by 佐藤円
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