試合後のミックスゾーンで選手の話を聞くときに、何がなんでも聞きたいことがある試合と何を聞けばいいのか湧き出てこない試合がある。今節は後者。虚無を感じる試合結果ではないけれど、何かが足りないことを感じてるのに、それが何なのかぼやけて分からないから選手に聞く言葉も見つからない。それとも渋谷洋樹監督の「こっちも3−4−3で行くのでよろしく」という伝言を、ニュアンスが分からないままなのに純粋に信じたことがショックなのかもしれない。大宮にとって3−4−3はオプションであり、甲府の3−4−3(3−4−2−1)の感覚を選手に体感させるための3−4−3へのトライでもあり、渋谷監督の今節のスタートの選択は4−4−2だった。ツートップが縦の関係になれば4−2−3−1とも呼べるスタートポジションだが、今節は富山貴光がズラタンのパートナーなので甲府のディフェンスラインに対するフィジカル面の圧力は2枚で強くできる。大雨の中のキックオフ、城福浩監督はジャージを着てテクニカルエリアに立っていたが、渋谷監督はスーツ姿。お互い、立ち上がりのマッチアップからストロングポイントとウィークポイントを見極めようとしていたのだと思うが、お互いに相手のチャンスの芽を早く強く摘み取り合う内容の立ち上がりとなった。どちらも悪くないが決定機も作れない。
甲府が気にしていたのは左サイドの泉澤仁のドリブル突破だが、対面したジウシーニョが1対1のディフェンスでボールを奪うシーンが多く、一発で行って抜かれるイメージを持っていたネガティブ思考を反省した。しかし、チームとしてボールを奪う位置をなかなか高くできないので奪ったボールをクリスティアーノに無理目の感じで出し、サポートできないまま大宮に奪い返される場面は多かった。大宮は左が駄目なら右という感じで、家長昭博の後ろから右サイドバックの今井智基が効果的な攻撃参加をしていたが、甲府の守備も堅く大雨の中の前半はラブオール。
後半。甲府サポーターは「we are kofu」の歌で心地いいリズムをピッチの選手に送り、大宮サポーターは「大宮シュート打て〜」の歌で、こっちも選手の背中を押す。キリノを頭から投入して攻撃の起点を作ろうとした甲府だが、51分にワンチャンスをズラタンに決められてしまう。甲府がボールをミスで失ったときに、「あ〜っ」と思ったが、家長が入れたクロスをズラタンはきっちり押し込んだ。ミスをミスで助けてくれる甘さはなかった。「ワンチャンスに決める力のある相手」という言葉を聞くのがだんだん辛くなってきているのだが、90分を通じてズラタンと家長にマンツーマンマークをできるような体力はないので、何とかしないといけない。「誰が悪い」という話ではなく、どうすれば少しでも高い確率で防ぐことができるかを考える当事者意識を、甲府の選手全員が苦しいときでも持ち続けることが大事。それができれば次の新潟戦はゼロに抑えることができるかもしれない。
今シーズンのリーグ戦で甲府が勝点3を挙げている試合は全て無失点。失点した試合は1度も勝てていない。「夏までに痩せる」という春の目標をほとんどの人が達成できないのと同じで、ここまでの26試合で残してきた傾向もなかなか変わらない。失点直後の焦りが出た時間に大宮に2点目を奪われることだけは防いだが、ボールを奪うラインが低く、ワントップが孤立するなかで選手交代をしても攻撃が大きく改善することはなかった。3枚目のカード、水野晃樹の右足が凄さを発揮するには時間も本数も足りなかった。セットプレーとパワープレーに賭けた終盤となったが、セットプレーが得意なチームではないし、パワープレーで仕事をする(田中マルクス)闘莉王は甲府の選手ではない。それでも、甲府の選手は1点を奪う意思を強く見せ続け、1点を守りたい大宮の心理に襲い掛かってアディショナルタイムにチャンスを作ったが、クリスティアーノがペナルティエリアから打ったシュートはホームラン。セットプレーやパワープレーで決められなかったことよりも、流れのなかで決定機を作れなかったことが課題として残る敗北となった。試合後の会見で城福監督が、「ここから先は、今まで何試合出ていたかは関係ないと思います」と話した。この言葉が2週間後の新潟戦に向けたポイントになるかもしれない。選手選考の考え方を少し変えるのか、選手を入れ替えるということなのか、示唆していることをいろいろ想像してしまうが、どんな判断があるのか注目したい。そこで今見えないものが見えてくるかもしれない。
14時KOの試合で17位の清水が14位のC大阪に3−0で勝ったのをスカパーオンデマンドで見届けたときに、「今節は濃縮の流れか…」なんてことが少し脳裏をよぎった。15時30分KOの試合で、15位の仙台が連勝中の6位・F東京に1−0でリードしていることを知ったときの甲府対大宮はまだ前半で0−0だったけれど、なんとなく追い込まれた気分で試合を見るようになった。結果として17位のC大阪(勝点26)から13位の仙台(勝点29)までの5チームが勝点3の中に押し込まれた第27節。世間様はG大阪が鹿島に勝ったことや新潟が川崎Fに勝って、2位・G大阪から5位・鳥栖が勝点2差に詰まったことへの関心が高いかもしれないが、仙台、甲府、大宮、清水、C大阪のファン・サポーターの皆さんは、ライバルチームの勝敗がこの先も気になってしかたがない節が続く。なかでも、甲府、大宮、清水は勝点28で並ぶ3兄弟。意思を持っているんじゃないのかと疑ってしまうソフト・日程くんは最終節に鹿島対鳥栖と同時に、大宮対C大阪、清水対甲府というカードを指名している。残留争いが最後までもつれることは覚悟しないといけないようだ。大宮の渋谷洋樹監督が言うようにラストセブンの「スタートラインに立った」ということでもある。徳島は厳しい勝点差なので、ほぼ5クラブに絞られたといってもいい残留争い。J1サロンの椅子に来年も座ることができるのは3クラブ。この5クラブを昨年度の予算規模で見ると仙台が約24億、甲府が約14,8億、大宮が約32億、清水が約30億、C大阪が約32億と甲府が圧倒的に小さいクラブ。しかし、それを理由にはしないし、約17億の鳥栖が優勝争いに絡んでいることに気がついていない振りはできない。与えられた環境でベストを尽くして目標を達成するのが地方クラブの矜持。天皇杯がある大宮は、結果も出ているし試合のリズムが作りやすいが、甲府は2週間空くだけにこの期間にサブの選手がチームに強い刺激をもたらせることに期待したい。ラストセブン、スタートです…な。
以上
2014.10.06 Reported by 松尾潤
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