武富孝介の目の覚めるようなミドルはキックオフから間もない。永木亮太の素早いリスタートを機にペナルティエリアの手前で仕掛け、右足を振り抜く。開始2分、電光石火の先制劇だ。
「あの失点が誤算だった」たとえば林堂眞が語ったように、愛媛にとって早々のビハインドはゲームプランを大きく狂わせたようだった。堀米勇輝も「最初のところは我慢して、相手が慣れてきたときに狙うプランがあったが、最初の失点で崩れてしまった」と悔やむ。
かたや幸先よくゲームに入った湘南は、さらに圧を強め、相手陣内に展開していく。幅を使いながら、時にセットプレーを交えながら縦に押し込み、失えば素早く囲み奪い返す。奪ったあとのファーストパスを相手に渡してしまう場面も見受けられたが、総じてポゼッションを強め、主導権を引き寄せた。
そんな展開のなか、もうひとつ大きかったのは次の1点だった。40分、永木が狙ったフリーキックは壁に角度を変え、ゴールに吸い込まれた。
愛媛にもしかしチャンスはあった。セットプレーでゴールに近づき、前半の終わりには中盤で奪ったところからカウンターに転じ、堀米のスルーパスにこの日8試合ぶりの出場となった渡辺亮太がシュートまで繋げている。だが1対1の状況にもGK秋元陽太がこれを阻み、流れを渡さない。
後半も互いに好機をつくり出している。湘南は三竿雄斗と菊池大介が左サイドを崩した先で宇佐美宏和が枠を掠め、愛媛もセットプレーからゴールに迫った。
そうして次にネットを揺らすのは、相手以上にチャンスを重ねていた湘南のほうだった。丸山祐市のフィードが愛媛の背後を捉え、交代で入ったばかりの岡田翔平がこれに応える。「岡ちゃんがいい動きをしてくれたので、ほんの少ししか見えなかったが、あそこに蹴ればなんとかしてくれると思っていた」アシストの丸山が振り返った勝負を決定づける3点目は、76分に記録された。
「湘南のサッカーのスピードに頭がついていってない。すべてにおいて後手を踏んでいる」愛媛の石丸清隆監督は振り返り、この日の敗戦を自分たちのサッカーの糧とする旨語った。図らずも湘南の曹貴裁監督が愛媛との前回対戦を引き合いに、「あの負けで自分たちが進むべき方向が逆にハッキリした部分があった」と語ったように、明日への実りは結果だけに捉われない。
一方、曹監督は言う。「悪いところはもちろんあるが、それぞれの特徴、パーソナリティが出たゲームになったと思う。手前味噌ですが、観ているお客さんのエネルギーになる試合が少しはできたのではないか」。いまの自分たちの立ち位置に満足することなく、プロとして今日の試合をしっかり戦おう。そうして臨んだ彼らは、全体を通してゲームを主導し、勝点3を掴んだ。
一点、加入後初先発となった熊谷アンドリューについて指揮官が語ったくだりが印象深い。「もっともっと質を上げる、運動量を上げる、精度を上げるということに彼がのめり込んでくれれば、今日の試合はひとついいきっかけになると思う」。のめり込むという表現は、曹監督がつねづね語る矢印や向き合う姿勢に通じよう。自分たちに矢印を向け、のめり込む彼らの、研鑽の日々は続く。
以上
2014.10.05 Reported by 隈元大吾
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