ついに“その時”はやってきた。
第31節福岡戦で勝利するまで8試合勝利から見放されていた水戸。しかし、その間、ほとんどの試合で主導権を握り、多くのチャンスを築き続けたものの、ゴールだけが決まらず、「あとは結果のみ」という状態が続いていたのだ。
ただ、結果が出ない中でもぶれることなく、やるべきことを積み上げてきた。そして前節湘南戦、これまでの歩みが間違っていないことを確信することができた。前半は中盤の守備が機能せず防戦一方の展開を強いられたが、システム変更した後半は主導権を握り、再三決定機を築いた。3点リードされながらも、1点差まで詰め寄り、「同点に追い付いて逆転できるチャンスもあった」（田中雄大）。首位を独走する湘南をあと一歩まで追い詰める戦いぶりを見せたのである。「相手がどこだろうと自分たちの時間帯を作ることができる」（吉田眞紀人）というある一定の手ごたえをつかむことができた。“開花”の時は着実に近づいていた。

あとはメンタルを強く持てるかどうか。前節湘南戦は立ち上がりに失点して、「後手に回ってしまった」（船谷圭祐）ことが敗因であり、磐田との前回対戦でも前半は腰が引けてしまったことにより、敗戦を喫した。自分たちのサッカーに自信を持ち、強いメンタルで試合に入れるかが命運を握っていた。

試合開始とともに水戸の勢いが磐田を圧倒した。2分、3分と左サイド田中の積極的な攻め上がりからチャンスを作り、磐田ゴールを脅かす。そして9分、中央ゴールから約30mの位置で得たFK。田中が左足を振り抜くと、ややアウトサイドにかかったボールは磐田ゴールに一直線。ゴール左隅に突き刺さったのだ。序盤からの勢いが乗り移ったかのようなスーパーシュート。「スーパーゴールが決まるとチームとして盛り上がる」と吉田が振り返ったように、その後さらに勢いづいた水戸が攻め続け、磐田に1本もシュートを打たせない完ぺきな内容で前半を終える。

後半に入っても水戸のメンタルの強さが際立った。1点のリードを守り抜くのではなく、追加点を奪おうという気概がプレーに表れた。開始3分に右サイドを突破した船谷からのライナークロスを吉田がダイビングヘッドでゴールに突き刺し、追加点を決めたのだ。
その後も攻め手を緩めなかった水戸だが、55分にDFのパスミスから最後は松井大輔にゴールを許してしまう。
1点差に詰め寄った後、磐田が勢いづいたため、水戸は苦しい展開を強いられるかと思われた。しかし、「3点を取るサッカーをしようといつも言っている」という柱谷哲二監督はあくまで攻撃的なサッカーにこだわった。
79分に前線に三島康平を投入。その1分後、笠原昂史のパントキックを三島が頭で流し、ゴール前に走り込んだ山村佑樹がゴールに流し込んで貴重な追加点を決めると、83分には右CKのこぼれ球を吉田が左足でゴール右隅に突き刺してダメ押しゴール。失点してもメンタルを落とすことなく、攻撃的な姿勢を貫いたからこそ生まれた4ゴール。これまで培ってきた攻撃的なサッカーがついに結果につながった待望の瞬間であった。

3位の磐田を相手に完勝をおさめたことはチームにとってこの上なく大きな自信となるだろう。ただ、浮かれる暇などない。今節勝点3を積み上げたとはいえ、まだ順位は17位。この位置で納得できるわけがない。そして、これまで苦しんだのはこの1勝のためではない。残り9試合、継続して力を発揮して勝点を積み重ねていくためのチーム作りが行われてきたはずだ。5対1の大勝をおさめた第14節京都戦の翌節、札幌に0対4の大敗を喫した悪しき記憶を絶対に忘れてはいけない。チームの真価が問われるのは、むしろこれから。これまで強いメンタルを持ち続けることができずに上昇気流に乗れなかっただけに、まずは次節岡山戦、5位のチームから勝利を挙げることが「チームが進化した」ことを証明することとなる。この試合で見せた強いメンタルを持ってアウェイに乗り込まなければならない。

18位のチームにまさかの大敗。3位の磐田にとっては信じがたい敗北と言えるだろう。だが、この試合において、すべてにおいて水戸に凌駕されていたことは認めざるを得ない。あらためてJ2というリーグの怖さを知ったに違いない。だからこそ、ここでもう一度原点に戻る必要があるのではないだろうか。戦術や技術以前に相手より走る、相手より戦うという姿勢がなければ、勝つことは難しい。特にJ2というリーグはタフな戦いを仕掛けてくるチームばかりだけに、そうした面は不可欠と言える。ただ、ここで意識を変えることができれば、この敗戦は決して無駄でなかったと言えるだろう。今の磐田に必要なのは黄金期に見せた「華麗さ」ではなく、「泥臭さ」や「ガムシャラさ」ではないだろうか。次節愛媛戦、問われるのは戦う姿勢。その先にJ1昇格を成し遂げるために必要な勝点3が待っている。

以上

2014.09.24 Reported by 佐藤拓也