前半は、互いの持ち味を発揮した主導権争いが繰り広げられた。鳥栖が前からのプレッシングとロングボールで圧力をかければ、柏は奪ったボールを素早く展開し、サイドから攻撃を仕掛けていく。
その中で、ディフェンスラインとボランチの間でレアンドロにボールが収まり、前半にレアンドロが2本のミドルシュートを放つなど、柏がわずかにリズムを掴み始めたが、鳥栖も左サイドの金民友、安田理大の突破やクロスに加え、セットプレーや敵陣深くのスローインで相手のゴール前へハイボールを送って押し返すことができるため、主導権を柏に掌握させず、一進一退の攻防が続いた前半は、0−0のまま終了する。
だが後半は、流れが大きく柏に傾いた。
後半が始まってしばらくすると、手元にハーフタイムの監督コメントが届いた。それによれば、ネルシーニョ監督は「もう少しボランチの選手は相手の陣地でのプレーを多くしよう」と指示を出している。それをさらに噛み砕いた言葉が、会見で話した以下のコメントである。
「前半、ボランチが前から行けていたが、奪う位置が少し低かった。局面で圧力をかけて、ミスを誘ってカウンターというシーンは作れたが、後半はボランチがもう少し前に圧力をかけてけん制することができた」(ネルシーニョ監督)
鳥栖が前線へハイボールを入れた後の、セカンドボールをケアする意識が高かった大谷秀和と茨田陽生は、前半は前への圧力をかける場面が少なかったが、後半に入り彼らが前から相手をけん制し始めると、柏がボールを奪う位置が一段と高くなり、彼らがレアンドロ、工藤壮人、高山薫の前線3枚に絡んで攻撃に厚みをもたらしていく。逆に鳥栖は、マイボールにしても奪う位置が低く、自陣深くに押し込まれた状態から前に出ていくことができない。結局はクリアに逃げるしかなく、それを拾った柏が2次攻撃、3次攻撃を仕掛けていった。
さらに1つポイントになったのが、68分の小林祐介の投入である。パサーの茨田から、自分でボールを運べる小林を投入して、前への圧力を強めたことで柏の攻撃に拍車がかかった。
中2日の連戦で、しかも鳥栖からすれば遠方のアウェイ戦。前半は、さほど気にはならなかったが、柏の幅を使ったパス回しにプレスをいなされたことが、徐々に体力面へ大きな影響を及ぼしていく。
「柏の局面でのショートパス、そこからチェンジサイドに少し後手に回ってしまい、自分たちの思うような体力の使い方ができなかった。前半にそこの体力を使ってしまった部分と、連戦の疲れからか鳥栖らしい前からの推進力が出なかった」(吉田恵監督)
体力を削がれ、動きに重さが見られてきた鳥栖にとって、何よりも脅威になったのはレアンドロだ。ボランチとディフェンスラインの間のスペースに入ってボールを受ける、あるいはサイドに流れて起点を作る。負傷で前節の浦和戦を欠場したが、それによってリフレッシュしたのか、この日のレアンドロの切れ味には凄まじいものがあった。70分、78分に挙げた工藤のゴールは、ともにレアンドロの“個の力”が局面を打開した。連敗を止め、ホーム4連勝をもたらしたエースの「2点ともレアンドロのゴールみたいなものです」(工藤)というチームメイトを称える言葉は、決して謙遜ではないだろう。
吉田監督の言うとおり、疲労の色が濃かった鳥栖は本来の動きではなかったかもしれない。それでも豊田陽平を中心にした前線への圧力、1本のハイボールで状況を打破できる鳥栖の能力の高さを考えると、柏は最大限の集中力と勇気あるエアバトルをもって対峙しなければ、到底防ぎ切れはしなかった。菅野孝憲、増嶋竜也、エドゥアルドと、守備陣の主力3選手を欠く中で、この日の柏の守備の出来は本当に素晴らしかった。ただ、それを引き出してくれたのは、集中力を極限まで研ぎ澄まさなければ勝てないというメンタル状況にまで引き上げてくれた、鳥栖の攻撃陣があってのものだと思っている。
90分を通じて、渡部博文と豊田が体と体をぶつけ合った激しい空中戦は、まるでイングランドのプレミアリーグを彷彿とさせるダイナミックさがあった。そうした1つの局面だけを切り取っても、Jリーグの面白さが表現されていた試合だったのではないだろうか。
以上
2014.09.24 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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