水曜日におこなわれた天皇杯、森保一監督がハーフタイムに「走ること、戦うこと」とシンプル極まりないコメントを出したように、前半の広島は球際での戦いに敗れ、G大阪よりも運動量で劣っていた。もちろん、広島の選手たちが最初から「戦えなかった」わけではない。その秘密は、G大阪が仕掛けたダイヤモンド型の中盤にある。
「うまく行っていない時、僕らベテランがもっと若手に声をかけてあげればよかった」と語る森崎浩司によれば、「あの時のG大阪には守備のスイッチを入れづらかった」とのこと。
「最近、僕らにあわせる形をとってくるチームが多い中、G大阪はダイヤモンド型に中盤を変えてきた。この形の相手とはあまりやっていないこともあり、誰が誰にプレスにいくのか、どのタイミングでボールをとりにいくのか、難しくなった」。
うまく行かなくなった時、想定通りに進まなくなった時、人はやはり動揺する。それでも経験があれば、やりながら修正することも可能だが、若い選手はそれが難しい。
「自分も経験があるけれど、うまくいかなくなると、どうすればいいかわからなくなって、ちょっとしたパニックに陥る。そうなると、身体も動かなくなるし、チャレンジもできない。もっと自分が声をかけて、細かく指示をしてやれればよかった」。
特に問題は、全体のマークが曖昧になったために、もっとも警戒すべき遠藤保仁がフリーになってしまったこと。プレスにいってもかわされ、いなされて、最後は遠藤がボールを持って決定的な仕事を遂行。先制点も、結局はG大阪の誇る至宝・ヤット(遠藤の愛称)が起点となった。
G大阪が果たしてどういう形で戦いをプランしてくるか。そこは、まだわからない。うまくいった広島対策をそのまま続けるのか、それとも、ボックス型の中盤に戻し、遠藤をボランチに下げるのか。選手はそのままにして形だけ変えるのか、それはわからない。だが、そこの部分について森保監督は「相手のフォーメーションは考えないようにしています」と語る。
「ダイヤモンド型かボックスタイプか、いずれにしてもG大阪は流動性を持って動いてくるでしょう。僕らはそういうG大阪に対して組織を以て対応するしかない。コンパクトなゾーンをつくってファーストディフェンダーが明確に、しっかりと守備をする。それによって、守備の連動性が生まれるはずです。その前提は、やはり球際の強さ。そして走ることです」。
G大阪は天皇杯で温存した、宇佐美貴史が満を持して登場してくるだろう。「どのスカウティングビデオを見ても、宇佐美は切れ切れ。得点力もあるし、周囲を生かせるプレーもできる。非常に危険だし、注意が必要」と森保監督も言う。だが、そこで指揮官が付け加えたのが、G大阪のタレントの分厚さだ。「パトリックもいるし、倉田秋も好調。しかもそのタレントたちが流動性・連動性を以て、攻撃を仕掛けてくるし技術的にも高い」と宇佐美や遠藤だけのチームではないことを強調。「そういうチームに勝利するのは難しいが、球際を強くアタックにいって、魂をこめて戦いぬく。それができれば、結果はついてくるはずだ」。
7連戦の最終戦ということで、選手たちの疲労はピークに達しようとしている。浦和との激闘連戦によって、さらに消耗していることも確かだ。厳しい材料がそろう広島ではあるが、ダークな部分を打破する希望もある。それはもちろん、皆川佑介・水本裕貴の日本代表組の帰還である。
特に皆川は天皇杯でも途中出場を果たし、青山敏弘のクサビから反転するところで相手のファウルを誘ってPKを奪取。落ち着いてゲットし、一矢を報いた。少々アバウトなボールになっても幅が広く懐の深いポストプレーでボールをおさめ起点となれる皆川の存在は、広島にとっては福音以外の何ものでもない。
ディフェンスリーダーの水本裕貴が戻ってくることで、最終ラインに落ち着きが生まれる。さらに天皇杯で奮闘した茶島雄介が先発の座をつかむ可能性もあり、千葉和彦や青山敏弘、森崎和幸の存在も含め、縦軸に一本のしっかりとした線が引かれるわけで、広島は水曜日とは全く別のチームとなって戻ってくる。もっともそれは、宇佐美やパトリック、岩下敬輔らがピッチに立つ可能性のあるG大阪にしても同様だ。
同じ相手に二度も続けて、ホームで負けることなど許されない。強い決意をもって、広島の選手たちはピッチに立つ。広島に連勝して、三冠に向けて大きな追い風を得たい。大きな希望を胸に、G大阪の選手たちもやってくる。闘志と闘志、意地と意地がぶつかりあう戦いは、19時キックオフだ。
以上
2014.09.12 Reported by 中野和也
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