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【第94回天皇杯 ラウンド16 群馬 vs 名古屋】プレビュー:アップセットはもう起こさせない。手加減無用、名古屋が正真正銘の全力で群馬を迎え撃つ(14.09.09)

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番狂わせが続出した天皇杯3回戦で最大のハイライトが、浦和vs群馬だったことは間違いない。当時のJ1首位を、当時のJ2で18位に低迷するチームが破ったのだから当然だ。失うもののない挑戦者に、直近のリーグ戦から9人を入れ替えて臨んだ格上が足をすくわれる。サッカーの世界では珍しいことではない。だが成功体験をつかんだチームはより粘り強くなり、普段の戦いよりも我慢ができるようになる。逆に負けてはならないとされる側にとっては、その意識が足かせになり、動きを鈍らせる。“トーナメントの魔物”とは、概してそういった要素から生まれるものである。

だから、というわけではないが、名古屋は群馬との天皇杯ラウンド16に現状のフルメンバーを揃える心積もりでいる。前週金曜日に行われたトレーニングマッチでは、田中マルクス闘莉王とレアンドロ・ドミンゲスがともに別メニュー調整で欠場したが、2日後の日曜日の紅白戦には復帰し主力組でプレー。週末には横浜FMとのリーグ戦も控えるため、ターンオーバーを考えてもいい状況ではあるが、西野朗監督は力強く言い切った。
「闘莉王もレアンドロも間に合いましたからね。あとは時間制限をするかというところ。リーグ戦と変えずにやりたいと思います。天皇杯は2つ勝ってもっと上へ行くチャレンジができるチャンスがある。それにJ1のプライドを見せないといけない。(ベスト16の)半分をJ2に残られてしまっている(7クラブ)。それが天皇杯の怖さでもあるわけですが。1試合1試合、残るシーズンで我々には多くて17試合しかない中で、何かしら抵抗していく、強いチャレンジをしていかなくてはいけない。余裕なんてないので、すべてを出し切りますよ」

図らずも表明された手加減なしの真剣勝負。挑む群馬がどのような作戦をもって臨んでくるかは興味深いところだ。浦和との一戦は結果的には試合終了間際に逆転し、そのまま逃げ切った。典型的なアップセットのパターンとして、よくある形だ。先制し、前がかる相手に対しカウンターで追加点を奪うパターンも常道だが、実力差があればあるほど前者のパターンのほうが安全かつ有効といえる。普段はポゼッションを志向し、チーム全体としてボールにかかわるスタイルを重視する群馬だが、名古屋を相手に専守防衛を選択することは決して逃げではないだろう。守りに徹し、持ち前のポゼッションで攻撃時間を長くし、後半に乾坤一擲の一撃を喰らわすプランは現実的かつ効果的だ。では誰がその一撃を仕留めるのか。ここはやはりエース平繁龍一や3回戦の殊勲・青木孝太らへの期待が膨らむところだ。また、要注意なのが左サイドの瀬川和樹に、2列目の宮崎泰右。ともに左利きで、前者は鋭いクロスで決定機を生み出し、後者は高いテクニックで攻撃に変化をもたらす厄介な存在である。

一方、名古屋のカギを握るのは、攻撃を操るテクニシャンたちだ。トップ下からキラーパスを連発するレアンドロに、中盤の底からリズムを刻む田口泰士、名古屋では天皇杯に出られない川又堅碁に代わっては、新人ながら指揮官の信頼を得ている矢田旭もいる。守る相手に対し、彼らがどのような崩しの一手を繰り出せるかは、この試合を通しての名古屋の課題である。そしてキーマンはもう1人。おそらくフォーメーションの頂点、1トップでの起用が濃厚な、玉田圭司だ。金曜日のトレーニングマッチではトップ下に入りさすがのゲームさばきを見せ、2得点を演出。ポジションにこだわらない動きで攻撃に流動性を与えていた。
「今はいろいろなことを試しているところ。前に張ってみてもあまりうまくいかない。試合を作るのも、ラストパスを送るのも、その前の段階のパスにしても自分のプレースタイルだから。今のチームはあまり崩すイメージがなくて、がむしゃらにクロスを上げるばかり。だからまずはイメージを周囲にわからせることをやっているんだよね。遊び心がないとね。全員がそればっかりだと困るかもしれないけど(笑)」

パサータイプのレアンドロと、フィニッシャータイプの玉田。プレースタイルの異なるゲームメイカーたちの共演は、これまではなかなか決定機につながっていないが、そろそろ華麗なパス交換からの“崩し”を見たいもの。その上で天皇杯に向けて玉田はこうも言った。「相手はJ2だけど、浦和を破っている相手だからね。オレは楽しみにしているよ」。頼もしい言葉は背番号11の好調の証である。2得点を挙げ勝利を決定づけた3回戦と同様の活躍を、期待していてよさそうだ。

今一度、西野監督の言葉を借りるならば「J2に半分残られている」状況は、観客にとってはおもしろくとも、J1クラブにとっておもしろくはない。だがそれと同時に、下馬評からすれば残ったJ1クラブは優勝へのチャンスが広がったとも言える。あと3勝でタイトル獲得と考えれば、全力で獲りに行くのは当然だ。ましてや名古屋はリーグ戦で上位争いから遠ざかり、ホーム瑞穂陸での今季リーグ戦勝利がわずかに1つという体たらく。何よりまずはホームでの勝利が欲しいところ。相手が首位であれ、J2の下位であれ、それは同じことである。アップセットを起こさせないのは大前提、しかし慢心することなく貪欲に勝利を渇望する。苦難続きのシーズンに少しでも彩りを添えるためにも、名古屋はこの千載一遇の機会を最大の力でつかみに行く。

以上

2014.09.09 Reported by 今井雄一朗
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